http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41152

尖閣諸島や歴史認識を巡って日本と中国の対立が続いている。それは年月が経つごとに深刻な様相を呈し、もはや首脳の相互訪問などによって日中の和解が進むなどと言ったことを考えることも難しくなっている。多くの国民が尖閣諸島付近での武力衝突を懸念する事態にまで発展してしまった。

 日中の対立の原因を、領土や歴史認識を巡っての感情のもつれや言葉の行き違いに求めることは正しくない。対立の根源には「フルセット国家」同志の経済的な対立がある。

 フルセット国家とは、資源やエネルギーは輸入するが、その他の全ての産業を国内に抱えようとする国家である。日本は町工場が作る食器からロケット、飛行機、またできれば全ての農産物を自国で作りたいと考えている。それは中国も同じである。

 これまで、多くの日本人は中国と政治面で対立したとしても、経済面では良好な関係を維持していたいと考えてきた。それは保守論壇に属する人々も同じだろう。中国が尖閣諸島を日本の領土と認め、かつ“正しい“歴史認識を持つのなら、仲よくお付き合いをしたいと考えてきた。

 しかし、それは間違っている。時間が経つにつれて、日本と中国は経済面において対立が深まっており、それが政治的対立に発展したと考えた方がよいと思う。

 日本の貿易収支が赤字に転落したことはよく知られているが、その中身についての詳細な報道に接することは少ない。原子力発電所を止めたために化石燃料の購入費がかさみ赤字の原因になったと報道されることが多いが、それは事実の一部でしかない。 

 本当の理由は、中国との貿易の赤字額が増大したこと、もう1つは稼ぎ頭であったヨーロッパとの貿易で中国に競り負けたことにある。
 世界貿易はリーマン・ショックによって大幅に縮小したが、その後、回復基調をたどり現在はリーマン・ショック前とほぼ同じ水準に戻っている。ここでリーマン・ショックの影響が少ない2008年と直近の2013年を比べてみよう。

 2008年は石油価格が1バレル140ドルを超えるなど資源価格が急騰した年であった。だが、それにもかかわらず日本は2兆5000億円ほどの貿易黒字を確保している。しかし、黒字額は年々減少を続けて、2013年には10兆円もの赤字に転落してしまった。

 石油や天然ガスを輸入している中東との貿易収支の赤字額は2008年が13兆8000億円、2013年が13兆2000億円と大きな変わりはない。これは省エネが進んだことから、原発を休止しても化石燃料輸入量が大きく増えていないことが一因である。

 一方、中国との貿易は2008年時点で既に1兆9000億円の赤字であったのだが、2013年には5兆円に拡大した。米国との貿易は2008年が6兆2000億円の黒字、2013年も6兆1000億円の黒字と変わりない。

 一方、EUとの貿易は2008年には4兆1000億円の黒字を計上していたものの、2013年には6000億円の赤字に転落してしまった。これは、ユーロ危機に伴いEUの景気が低迷して輸入量が減少したからとも考えられるが、景気減速だけが原因ではないようだ。それは、同じ時期に中国からの輸入が急増しているためである。EUの中国からの輸入額は2008年は716億ドルであったが、2012年には2866億ドルにもなっている。2150億ドルの増加であり、1ドル100円とすると21兆5000億円だ。日本からの輸入額の減少をはるかに上回っている。

 景気減速に伴い、品質が良くても高価な日本製を敬遠し、安価な中国製を輸入するようになったのであろう。日本はEU市場における中国との競争に敗れた。

 経済学者は手放しで自由貿易を礼賛するが、それはリガードが言ったようにA国とB国がそれぞれ得意な商品を生産して、それを交易した場合に限られる。両国の生産するものが一致している場合は喧嘩になってしまう。まさに、日本と中国はそのような関係にある。

 世界貿易の大きな部分を占める工業製品において、中国と日本は同じようなものを作ろうとしている。少し前までは、同じ製品でも中国は性能が悪いが安いものを生産し、日本は性能が良いが高いものを生産していた。つまり、違うものを生産していた。だから、その交易はウィン=ウィンの関係にあった。


 しかし、中国の技術が発展したために、日本と中国はまさにキャラクターがかぶる存在になってしまった。そして似たような製品を作れるようになった今でも、中国の人件費は安い。人口も多い。その中国と競争したことが、デフレの原因になり、また、賃金下落の原因にもなった。

 現在、中国との貿易額は米国との貿易額を上回っている。そして、中国はフルセット国家を目指している。人口が13億人もいるのであるから、当然の発想であろう。

 だが、先ほども述べたように、日本もロケット、飛行機から町工場で作る食器まで全ての工業製品を自国で生産したいと考えている。ついでに農産物も自給したい。だから食料自給率にもこだわっているのだ。目指してきたのは「ものづくり大国」である。高い技術を有していれば世界で勝負できると考えてきた。

 しかし、4Kテレビが爆発的なブームにならないように、技術の発展は、人間が要求する製品の水準をはるかに上回るようになってしまった。人間は最先端の技術に裏打ちされた商品でなくとも満足できる。中国はほどほどの性能の製品を安く作ることによって、日本のマーケットを侵略し始めた。

 ここに述べたことは漠然と認識されてきたことと思うが、貿易統計と突き合わせて定量的に議論したのは本稿が初めてだろう。中国に対抗するためには賃金を切り下げ、派遣を増やし、サービス残業を強制するしかない。そのような状況の中で、苦しみの原因が中国にあるのではないかと気づき始め、とげとげしい嫌中感情を抱くようになった人も少なくない。日中対立の根は深い。

 人口13億人を抱える隣国がフルセット国家として台頭してきた現在、日本は相変わらず「ものづくり大国」を目指していてよいのか、根本に立ち返って考え直すべき時期に来ている。そして、もしこれからもフルセット国家を目指したいのであれば、政治だけでなく経済面でも中国とは距離を置いた方がよいと思う。このあたり、真剣に議論する必要がある。