http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/sapio-20140519-01/1.htm

 あらゆる企業に「13億人市場」が魅力的に映ることは当然だ。一方で、中国進出と同時に始まる日系企業への「嫌がらせ」に辟易し、撤退する企業も増えている。しかし、撤退すら一筋縄ではいかないのがこの国の恐ろしさだ。

日系商社Aの上海支社に中国当局から屈辱的な通知が届いたのは昨秋のことだ。

 A社では安全性の高い日本製の屋内配電ケーブルを中国で生産・販売しようと2009年から営業活動を続けてきた。11年秋には北京のマンション建設業者から受注し、いよいよ中国での市場開拓に目途が立った。ところが、中国での販売に必要な「CCCマーク」(日本の「JIS」「PSE」などに相当)の取得がハードルとなった。同製品は日本ですでにPSEを取得済みで安全性に問題はなく、中国での申請は容易に済むはずだったが、役所はのらりくらりと認証を出そうとしない。

 担当の役人からは「もう一歩でなんとかなる」と言われ、露骨な裏金要求もあった。「あと一歩」がいつまでも続き、様々な名目でカネを取ろうとする。払った額の合計は数百万円。さんざん待たされた挙げ句、「専門家の意見」を理由に通知された結果は、やはり「認定不可」だった。

「新型ケーブルは中国のものよりコストが安い上、漏電しにくく火事のリスクも低い。中国のケーブル会社を保護するために参入阻止したのでしょう」とA社社長は憤る。

 A社が被害にあったように中国企業に有利になるよう仕向ける(加えて現場の役人が裏金を要求する)パターンはかねて行なわれてきた日本企業いじめの典型例だが、特に12年に尖閣諸島問題がクローズアップされてから、嫌がらせの対象は広範になっている。それによって財界が日本政府に「中国に妥協すべき」と働きかけることを狙っているのは言うまでもない。

 激しい反日デモが起きた12年9月に、ユニクロを運営するファーストリテイリングがターゲットになったことは記憶に新しい。上海の警察当局からユニクロ店舗のショーウィンドウに、「支持釣魚島是中国固有領土」(尖閣諸島は中国固有の領土であることを支持する)という貼り紙を貼るよう繰り返し強く要求され、店長の判断で貼ったところ、官製デモ隊らに撮影されて「日本企業もこう言っている」と政治利用された。

 中国市場でビジネスを展開する日本の製薬会社B社は、尖閣問題の後、こんな嫌がらせを受けた。

「当局から、B社の薬と似たような効果がある中国製の薬がある場合は日本のものは使わず中国の薬を使うようにというお達しが出た。何年もかけて販路を開拓してきたのに、お達し一つですべてが白紙になってしまうから日本企業いじめは恐ろしい」(中国の日系企業幹部)

 圧力をかける手口は様々だ。

 例えば税関で「あれこれと難癖を付けられる。当然、賄賂も要求される」(電子部品メーカーの上海駐在員)のはよくある話だ。

 上海では日本の各都道府県が窓口として事務所を設置、観光誘致のほか地元企業の中国でのサポート業務などを行なっている。日中関係が緊張するたびにそれらの事務所に市の役人たちが突然訪れ、書類を漁っていくという。

「理由も開示されず、抜き打ちで検査されました。普段は問われないような軽微な違反を見付け圧力をかけてくる。3か月間の営業停止を命じられた自治体事務所もありました」(東北地方の事務所職員)

 反対に、日本企業が犯罪の被害を受けても警察はまともに捜査しない。

 上海にある日系メーカーC社工場では12年以降、レアメタルなどの高価な金属が盗難される事件が頻発した。防犯カメラの画像や目撃者の証言から、犯人はC社の中国人社員であることが濃厚だった。

「本人が認めなかったため、警察に通報した。ところが警察は『その中国人社員がやったかどうか100%の確証はない』などと言って事情聴取すらしてくれませんでした」(C社関係者)

 共産党の御用メディアばかりのマスコミもまた、日系企業の難敵だ。

 黒龍江省ハルビン市が今年はじめ、市内のタクシーにトヨタ車を使用すると発表すると、人民日報系の自動車ニュースサイト「中国汽車報」が噛み付いた。「釣魚島問題や靖国参拝に際して我々は日本製品ボイコットを行なってきた」「ハルビン市政府は民族としての尊厳を売り払うべきではない」。

 進出企業のコンサルティングを行なうなど中国ビジネスに詳しい高田拓氏が解説する。

「報道による日本叩きは日常的に行なわれています。メディアから日系企業に『おたくの批判記事を出しますよ』と連絡し、記事を掲載しない代わりに高額の広告掲載を求めてくる事例もあります」

 様々な嫌がらせに辟易し中国から撤退する日本企業は多い。高田氏が続ける。

「人件費や家賃の高騰、競争激化などにより収益が見込めなくなり、昨年末から今年にかけて日系企業の撤退や事業縮小が続いています。明治乳業の粉ミルク販売休止、ロート製薬の上海現地法人の解散、薬用化粧品ドクターシーラボの撤退、日本ガイシの中国生産子会社解散、イトーヨーカドー北京望京店の閉鎖などがそうです。撤退までしなくても、共産党政権による嫌がらせや日本商品不買運動が多くの企業に影響を与えていることは間違いない」

 しかし、撤退すら容易でないのが実情だ。日系企業は撤退しようとして突然課せられる“手切れ金”に悩まされることがある。税理士でコンサルタントの日上正之氏が解説する。

「広東省など地方都市では地元政府の権限が強く、『郷に入りては郷に従え』ということで独自の簡略化した納税方式をとらせ、一部では政府自らが脱税を容認してきた経緯がある。ところがいざ撤退となると突然手のひらを返し、『未払い分の税金と追徴課税を払え』と請求してくる場合がある」

 撤退時に数十億円の課税請求を受けた日系企業もあるという。

 中国当局はあの手この手で撤退を阻止しようとするため、工場を単なる倉庫として使って、事実上の休眠状態にしている会社は少なくない。

 中国人従業員を解雇する際の交渉も一筋縄ではいかない。従業員側は弁護士を連れてきて「あの時実は私は残業をしていた」などと言い張り、補償金を不正に吊り上げようとする。かつては給料の2週分くらい渡せば解雇できたが、今は6か月分が相場になっている。

 日本企業にとって、中国でのビジネスは進むも退くも困難な時代を迎えている。


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