約束は果たされた。

だけどそんなことをこの人には言えない。



私が彼に惹かれているのは事実だから。



この話をする時に、ここだけは嘘をつこうと決めていた。

平然と何食わぬ顔で話そうと決めていたのだ。



高校生の時、私は先生のことを忘れることはなかった。

でも思い出すこともまたなかなかなかった。


勉強に部活に忙しい生活を送っていると、

どうしても記憶の隅の方に追いやってしまう。


でも不図した瞬間に思い出しては切なくなっていた。

切なくなっても逢うことも出来ないし、話すことも出来ない。



中学を卒業する日、先生と携帯のメールアドレスだけを交換していた。

それから一年に一度だけ、メールが来た。


3月10日。


高校受験の、学科が終わったその日。

毎年その日にメールが来た。



「この日だけは、おれのことを想ってくれ。

 他は忘れていてもいいから。」



「言われなくても。

 先生こそ、想っていてください。

 また三年後に逢う時まで。」



先生からのメールは、両手で数えられるほど。

すべて保存してある。



一生消さないし、消せないだろう。






―――――――――「続きを聞かせてくれないか」


感慨に耽って沈黙した結木を促すように、小暮が言った。



「そろそろ帰りませんか?続きは帰りにゆっくり話します」


結木がそういいながらジャケットに手を伸ばすと、

小暮は結木よりもさっとジャケットを着て、伝票を持ち、立った。



「あ、私の分は…」


と結木が言いかけるのを遮って、小暮は振り向いて続けた。



「君に色々話させたお詫びだから気にしないで

 それにおれ、実は先輩だしね」


小暮は笑ってレジへ向かった。