「おれは…

 結木とずっと一緒にいたいよ」


翔野の表情には哀しみが滲み出ていた。

ひとつひとつの言葉をきちんと選んでいるようで。


自分が何を言いたいのか、

私に何を伝えたいのか、


それを確かめているようだった。



「‘一緒にいたい’けど、距離を置くの?」


私は、不図、疑問に思ったことをそのまま尋ねた。

それなら、いちいち‘距離を置く’必要はないのではないか。


だって私も、翔野のことを思っているのだから。


お互いが思いあっているのに、‘距離を置く’なんて、

何て非効率なことだろう。


そもそも、‘距離を置く’ということが、

どういうことなのか定義づけ出来ていなかった私は

翔野がその言葉につけた定義を聞いてみたいと思っていた。



「一旦離れることでさ、

 見えるものってあると思うんだ


 新しい見方が出来る…っていうのかな?

 テストとかでもあるだろ?変な例で悪いけど


 それってさ、恋愛にも適応すると思うんだ」


哀しげな表情はそのままだったが、

翔野の眼は真っ直ぐなものに見えた。


強い眼、だった。



「新しい、見方…」


「うん…結木さ、

 この頃神坂先生のこと慕ってるだろ…?」


思いがけない言葉だった。

どうしてそんなに神坂先生のことを気にするのか。



「遠くから見ててさ、何となく分かるんだ

 それで不安になった、おれは結木の何なんだろうって


 結木が、神坂先生に抱いている感情が

 どんなものかは分からない

 恋なのか、尊敬なのか、憧れなのか…


 でも、その類のものだ…


 そして神坂先生も、何らかのプラスの気持ちで、

 結木のこと、想ってると思うよ。」