神坂先生の姿を見て、内心驚いたものの、
私はそれを顔には出さず、「どうも」と会釈して、
また本に視線を戻した。
「何を…読んでいるの?」
それでも怒らず、穏やかに聞いてくる先生。
「源氏物語です」
私は、本に目を落としたまま答えた。
「源氏物語、好きなの?」
意外そうな声を出す先生。その表情は見ていない。
多分、中学生が源氏物語を読んでいることに驚いたのだろう。
「ええ」
さも邪魔だという感じで、必要以上のことは喋らない。
「…なぁ、顔、上げてくれないか」
神坂先生の声音が、少し険しくなった気がした。
その言葉を聞いて、私はゆっくりと顔を上げた。
どうして邪魔するのかという冷たい眼をして。
すると、私は私よりも冷たい眼をした人の姿を認めた。
神坂先生の眼は、「先生」の眼ではなかった。
彼はその時、
今まで学校内で見せたことのないような、
大人の男の人の眼をしていた。