結局神坂先生は、それからお開きになるまで、
30分くらい私たちのテーブルにいた。
恋愛話のあとも、後輩や聡子からの質問攻めにあい、
専ら、「自分」という人間を説明する羽目に陥っていたが。
その時知ったことは、
神坂先生がある大学の文学部を卒業したこと。
そこで日本史の平安時代あたりを専攻していたこと。
付き合った女の人もいたけれど、
お互い地元に帰るということで別れてしまったこと。
コーヒーが好きなこと。
旅行が好きなこと。
英語もそこそこ喋れること…
等々だった。
私は、先生をからかったあの会話のあとは、
ひと言も言葉を発しなかった。
神坂先生と、なるべく関わらないようにすると決めていたことを
忘れていたわけではないが
それを守れなかった自分が、何故かとても哀しかったからだ。
神坂先生に、確かに魅かれている自分があの時はいたけれど
それを認めるわけにはいかなかった。
それを認めたのは、
もう少しあとのことだった。