「私の話なんかよりも、

 先生の話、聞いてみたいですよ~

 

 神坂先生は、彼女はいないんですか~?」


私にしては精一杯の明るさで、巫山戯てみた。


幸い、もう一つのテーブルはそこで盛り上がっているようで、

美月たちがこちらの話に顔を向けてくることはなかった。


きっと、向こうのテーブルでも、神坂先生の恋愛については

根掘り葉掘り聞いてしまっているのだろう。



「あーそうですねー

 神坂先生の恋愛話、聞いてみたいなぁー

 先生、モテるでしょ?」


聡子があとに続いて、助け舟を出してくれた。



「そうですよー

 みんなで焼き肉とかこんな機会、滅多にないんですから


 神坂先生の話、聞いとかないと」


もうヤケクソだった。



「彼女はいないよ」


神坂先生は、もう一つのテーブルから持ってきた

ウーロン茶の入ったグラスを手で弄びながら答えた。



「えーいないんですかー?

 神坂先生、かなりモテそうなのになぁ・・・」


後輩の子も、どうやら矛先を神坂先生に向けたらしい。

口をはさんでくる。



「好きな人とか、おらんのですかー?

 同窓会で出会ったとか、学校の先生の中にとか


もう一人の後輩が質問する。



「そりゃマンガの読み過ぎや」


神坂先生は、笑った。そして続けた。


「そん中には今んトコ、おらんかなぁ



「へぇ、もったいないですねー

 神坂先生だったら、速水先生でも射とめられそうなのに」


私は、神坂先生を少しからかってみることにした。

いつも、上を行かれているような気がしたから。


速水先生とは、女の先生方の中では一番若い、

24歳の数学の先生だった。


子どものようなところがある、とても可愛いらしい先生で、

容姿も悪くはなく、守ってあげたくなるような人だった。


教え方も分かりやすく、生徒からの人気も高かった。

一応3年団の先生なので、神坂先生とも接点があるはずだった。



「速水先生?


神坂先生が、意外そうな眼をして、こちらを見てくる。



「速水先生、神坂先生と話してるとき、

 他の先生方と話す時よりも、嬉しそうに見えますよ

 本当に可愛らしい先生ですよねー


 2人、付き合ったらどうですか?

 お似合いだと思いますよー」


からかいの口調は崩さない。

あくまでもここは学校ではない、少しなら羽目を外してもいい世界。


神坂先生がどんな顔をしようとも、

私は神坂先生のことは何とも思っていない態度を取り続ける。



「榛名さんでも、そういうこと言うんだな



神坂先生は、笑いながら言った。

私も笑いながら二言三言交わした。



でも、私は、神坂先生をやり込めるのに必死で、

神坂先生の眼が、真剣だったことには気付いていなかった。