賀川先生と、たわいもない軽口を
叩き合っていた時だった。
私は、右から誰かが来ていることに気がついた。
ゆったりとした歩き方。
賀川先生も気付いたようだ。
‘誰だろう?’
そう思うと同時に、
賀川先生がその人に声をかけた。
「あぁ、神坂先生
榛名を借りてて申し訳ないです」
その人の名前を聞いて、
私は顔をそちらに向けるのを止め、
すこし俯いた。
「いえいえ、榛名さんも忙しいですね
生徒会に委員会に部活に…」
そう言いながらも、神坂先生が立ち止まることはなかった。
私はホッとした。
‘早く、行ってくれ’
そうとすら、思った。
しかし、神坂先生は、私の前を通る時
歩く速さを少しゆるめた。
そして、
俯き加減でいた私と、
すっと眼を合わせてきた。
「お疲れさま」
笑顔で言ってくれる。
しかしその眼は笑っていなかった。
「どうも」
私は会釈した。
そしてそのまま歩いて行く神坂先生の後姿からは
眼をそらせた。
久々に、‘怖い’という感情が、
私の中に浮かび上がってきた。
その時、通って行った神坂先生が
私の方に投げかけたあの眼。
あの眼には、
嫉妬の色がありありと見て取れた。