その時、何故、‘おめでとう’と言ったのか、

私が神坂先生に尋ねることはなかった。


それ以外にも、

私から神坂先生に話しかけることはなかった。


神坂先生から話しかけてくれば、それに応じる。


しかし、それ以外で私から神坂先生に話しかけると言えば、

朝か帰りの挨拶くらいだった。



それだけ私のプライドは高かった。



知り合って2ヵ月かそこらの先生に、

成績に関することを言われたくはなかったのだ。



そんな時、体育祭の準備をしなければならない日があり、

また部活に遅れる日が続いた。


私は正直、ホッとしていたところがあった。


少しでも神坂先生と会わない時間が増えることは

自分にとってはラッキーだった。


それに体育祭の準備では、

生徒会の担当である賀川先生もよく顔を見せてくれていた。


私は、


確かにこの先生から

神坂先生への態度をたしなめられたりもしたが、


賀川先生のことを、慕っていた。



一度、生徒会室の前の廊下を使って、

体育祭で使うある道具の準備をしていた日があった。


私も他の生徒会役員の子と一緒に、

それを用意していた。


その時、賀川先生がふらっと横に来て、

テストのことについて話し出した。


「榛名、今回の中間、98だったろ

 やっぱりおれのテストの方が上だな」


賀川先生がにやにやしながら、そう言ってくる。

いつものことだ。


テスト返却の時も、何とも言えない笑みを浮かべていたし、

こういうふうに何もない時でも私を挑発してくる。


「何でそんなこというんですか

 これ、学年最高でしょ?十分じゃないですか」


笑って返す。


「へぇ、榛名の志はそんなにも低いものだったのか

 それとも負け惜しみか」


賀川先生も笑う。


私は分かっていた。

自分の目が笑っていないことを。


でも、この会話を楽しんでいる自分がいるということもまた、


分かっていた。



そんな時だった、



神坂先生が、廊下を通りかかったのは。