「皮肉かと、思ってたんです」


結木は、聞きとれるか聞きとれないかくらいの

小さな声で呟いた。


幸い、周りは、

海の風の音だけが聞こえる状態だったので


その言葉は小暮にも聞こえたようだ。



「神坂先生の、‘おめでとう’を?」


小暮が聞き返す。



「ええ、だって私自身は正直、

 90点代がとれなかったことが悔しかったですし…


 80点代で、‘おめでとう’と言うなんて、

 この人は何を考えているんだろう?

 って訝しく思ったものですよ


結木が笑う。


その笑いは、何も含んではいなかった。

苦笑でも冷笑でもなかった。


ただ、本当に‘おかしい’から笑っているような

笑い声だった。



「でも、あの頃の私は、

 それが皮肉みたいに聞こえた…


 学年1位がこれだけしかとれないのか

 って言われているような気がして…」



「でも…皮肉では、なかった?」



「ええ、あとから聞いたんですけど、

 何か、神坂先生の作るテストで

 85点以上とった生徒は初めてだったそうなんです


 他の中学も含めてですよ?

 どれだけ難しかったんだって話ですよね」


結木はまた笑った。



「でも…」


しかし結木は、ふっと真顔に戻って続けた。


「あの頃の私は、

 それを‘皮肉’だと思っていた


 だから、止めたんです、


 最低限のこと以外で

 神坂先生と、関わるのを」