「遅かったね」
塾に着くなり、聡子がこう言ってきた。
大教室には聡子しかいなかった。
翔野は、まだ来ていないのだろう、靴がなかった。
「うん、ごめんね」
私は普通に答えた、つもりだった。
「どうしたの?
なんか変だよ、結木
…神坂先生と、何かあったの」
聡子が怪訝な顔をして聞いてくる。
「ううん、何も
あ、メモありがとうね
帰りに神坂先生と丁度会ったよ」
無難に答える。
何があったかを話す気なんて
さらさらなかった。
「急にどこかに行っちゃうからびっくりしたよ
あのあと、神坂先生、一瞬険しい顔してさ
結木の行った方をじっと見てたんだよ
美月が話しかけるのも、聞こえない感じでさ
意外だったな、あんな顔」
聡子が話を続ける。
「そうなんだ
…なんかさ、嫌だったんだ…
美月と一緒なこと思ってたのが、さ
‘社会が難しかった’ってことがショックで…
そのテストを作った神坂先生と、話したくなかったんだ…」
私が神坂先生から逃げた理由として、これは嘘ではない。
ただ、事実の一部分ってだけだ。
「そっかぁ、まぁ結木は、社会については
どの教科よりも一生懸命しょうったけんなー
そう思うんも仕方ないんやろねー」
聡子は納得したようだ。
私はホッとした。