「神坂…先生…!」



いつもそうだ。

この人には驚かされて、私はいつも反応が一瞬遅れる。



「鍵、おれが返しておこうか?」



「…じゃあ、お願いします」


私は鍵を差し出した。

ここは素直に渡して、さっさと帰ってしまうのが得策のように思えた。


周りに人はいない。


もうみんな帰ってしまったのか、

私と神坂先生の声だけが廊下に響いている。



「あぁ、返しておくよ」


鍵を受け取る神坂先生。

その表情はどこか、憂いを帯びているようで。



「先生、どうしてここに?

 正門の方に行かなくていいんですか?」



さっさとその場を離れようと考えていたのに、

私はいつの間にか、先生にこんなことを質問していた。



「あぁ、あれは別に強制ではないからね


 それに…


 待ってる人が出て来ないのに、

 あそこに立つ意味はないから」


鍵を掌の中で弄びながら

神坂先生が答える。



「そうですか」


私は敢えて、彼の‘待ってる人’という言葉に

反応を見せなかった。



「では、失礼しま「どうしてさっき逃げたの」


打って変わって威圧感のある声が、私の耳に届いた。

驚いて、そして怖くて立ちすくむ。



彼が怒っていることが、よく分かった。



そしてそれは、当然のことだったのだろう。