その声を聞いた瞬間、私は顔が強張るのを感じた。


何故かは分からない。

だけど、笑うことができなかった。


「どうした?」


聡子が心配そうに聞いてくる。



‘本当に、どうしたんだろう’


美月と先生の会話を聞きながら、

ふとそう考える。



ポーカーフェイスが出来なくなってる。

顔が強張る。


その時、後ろから唐突に、


「あ、榛名さん」


と声がした。


いつもどおり、少し低めの、でも優しい声。


先生に声をかけられるなんて

正直思ってもみなかった。


だけど、こころのどこかで期待してた。



期待…してたんだ。



そのことに気づいた瞬間、

私は愕然とした。



私は、期待してた。

先生が美月を放っておいて、こっちに向いてくれることを。



「ちょっ、結木?」


私は聞こえないふりをして、その場を離れた。

聡子が焦るのが目に浮かぶようだ。



‘あとで謝らなきゃなぁ’


そう思いながら、階段を下りる。

別に用はないのだけれど。



その場を離れると、自分が冷静になっていくのが分かった。


‘ちょっと露骨過ぎたかなー’


と少し後悔したけれど、

冷静になってみて初めて分かった。



私は自分自身が許せなかったということを。