「本当にそれだけか?」


賀川先生は落ち着いた、しかし威圧するような声で

静かに聞いてきた。



「それだけです

 部活中は関係ないことを

 喋ってほしくないんです


 気が抜けて、良い練習にならないから」


私はしっかりと先生の眼を見つめて答えた。



「違うだろう


賀川先生は首を横に振った。



「何が違うんですか

 それだけですと言ってるじゃないですか」


いくら私でも、ここまでしつこく言われると

いらいらする。



「おまえがそうやってムキになるからだ」



「ムキになんて、なってません

 むしろ先生がそんなこと言うからでしょう」



「ムキになってるじゃないか」



どうしてここまでしつこく言われるのか

あの頃の私には分かっていなかった。



「…わかりましたよ

 ちゃんと、神坂先生と話しますから


 それでいいでしょう?


 どの先生が好きとか嫌いとか

 思うのは、私の自由なはずです


 そういう感情は抜きにして

 きちんと神坂先生と接しますから


 結局それならいいんでしょう」



私は、溜息をつきながら妥協した。



「そうだな、

 おまえの感情はおまえのものだ


 だから俺はそこまで口出しするつもりはない


 神坂先生ときちんと向き合うなら

 それでいい


 俺はおまえに、嫌いになった人間を

 避けるような人間にはなってほしくはないんだ」



賀川先生は、さっきよりもいくらか優しい口調で

そう言った。



「すまなかったな

 俺の方がムキになってた


 気をつけて帰れよ」



そう言って、

賀川先生は出て行った。



「はい…」



返事をしたものの、

賀川先生が出て行った生徒会室から

出て行く気にはなれなかった。



賀川先生とまた顔を合わすのが

怖かったというのもあるが、


神坂先生とばったり会ってしまうのも

怖かったのだ。



神坂先生の前で

自然と振る舞えるだろうか



自信は、なかった。