自己紹介が一通り終わった後、

その日は解散することになった。


グラウンドが使えない分、

筋トレをしようと考えていたのだが、


そういう雰囲気では

なくなってしまっていたからだ。


皆、先生に質問を浴びせたり、

先生の質問に答えたりすることに夢中になっていた。


とりあえず解散ということになっても、

私以外の誰も、先生の前から去ろうとはしなかった。



他の部活に入ってる友達が、こっちを見て、

不思議そうな顔をしてきたので、


私は肩をすくめて、その子に答えた。


自分のバットとグラブを持ち、

その場から早々に立ち去ろうと踵を返したその時、



「榛名さん」


と、後ろから、低い、でも優しい声で呼びとめられた。



「…はい?」


声をかけられるなんて、予想だにしていなかったので、

私は一瞬、反応が遅れた。


後ろを振り向くと、

今の今までベンチに座って、楽し気にお喋りをしていた先生が、

部員の間をすり抜けて、こちらへ向かって来ていた。



「榛名さんは、もう帰るの?

 もし良かったら、部活のこと、色々と

 聞きたいんだけど」


端から見たら、かなり魅力的な笑みに見えるんだろう、

そんな笑みをを絶やさずに、先生は話しかけてきた。



「あ…すみません、今から塾なので」


そんな笑顔を見せられても、

私は何とも思わなかった、思えなかった。



「せんせぇ、部活のことなら私が話すよ!

 結木は忙しい人やけん!」


美月が口を挟んでくる。



その口調は、

先生にアプローチしているというよりは


先生が、他の話しかけている部員を放っておいて、

さっさと立ち去ろうとしていた私に話しかけたことで、

何か焦りを感じているように思えた。



「じゃあ、美月、よろしくね

 先生、失礼します」


私はそれだけを言い残し、早足で部室へ向かった。


後ろから聞こえてくる後輩たちの挨拶に、

手を振って答えながら。



後ろを向いていても、

私ははっきりと感じ取っていた、


あの人がこちらを、


私の後姿を眺めている、その視線を。



こんなにもはっきりと視線を感じたことなんて、

その時まで、一度もなかった。