少し早めに部活を切り上げて、
グラウンドの整備と、道具の片づけをしたあと、
野球部の倉庫の前のベンチに集合した。
周りでは何人かの野球部員が、思い思いに練習している。
キャッチボールをしていたり、ティーバッティングをしていたり、
筋トレをしていたり。
先生の前に立っていながらも、
私の眼は先生を通して、野球部の方を見ていた。
それに気付いたのか、先生が話しかけてくる。
「じゃあ、皆に自己紹介してもらおうか、
一回で覚えきれる自信はないが…努力はするから」
と笑いながら。
「あ、じゃあまず俺から言った方がいいかな
俺は、今度の異動で新しくここに来た、神坂だ
前は、R中学にいて、
ソフトボール部の監督をしていたんだ
俺自身も、小中高と野球をしていてな
またソフトの監督が出来るのが有難いと思ってる
まだ分からんこともようけあるから、
いろいろ聞くかもしれんが、よろしくな」
「よろしくお願いします」
部員が礼をする。
「じゃあ、キャプテンから、お願いしようか」
先生がこちらを見て、笑う。
私は少し、先生の眼を見据えた。
―しかしその時の私の眼は、本当に冷たかったのではないかと思う。
「はい、キャプテンの榛名です
ポジションはショート、打順は1番です」
それだけを、言った。
何ともそっけない自己紹介。
「榛名…結木さん…か」
その一言に、私は驚いた。
何故、初対面のはずのこの人が、私の名前を
知っているのか。
「え…どうして名前を知ってらっしゃるんですか?」
すると先生は笑って、
「他の先生方が教えてくれたんだ
ソフトボール部のキャプテンを聞いた時にね
君は、職員室の中でも、評判が良いみたいだね
頭も良い、部活もしている
それに生徒会長もしているんだろう?
皆、優等生だって、褒めてたよ」
「あぁ、そうですか」
そんなことは当然だった。
別に完璧主義な人間ではないが…
‘優等生’でいることに苦痛はなかったし
むしろ‘優等生’でいた方が、楽だったのだ。
私がそれ以上返事をする気がないのを察してか、
彼は私の隣の子に自己紹介をさせた。
その時、美月が、先生の社会を受けるということを
殊更に強調していたようだったが、
私にはどうでもいいことだった。
その時はただ、
これが終わったら、
早く着替えて図書室に行かないと、
と、それだけを考えていたのである。
サッカー部も、片付けに入っていたのが、
目の端に見えていたからだ。