神坂先生のノックは、意外と上手かった。
キャッチャーからボールを受取って、すっと垂直に投げ上げ、
すべらかにバットを振る…
一連の動きがなめらかで、無駄がなかった。
‘野球かソフトをしていたんだろうか…?’と思った時、
「せんせぇ!ノック上手いですね!
何かしてたんですか?」
美月が、セカンドの位置から先生に声を掛ける。
「あぁ、ずっと野球をしていたんだ
前の学校でも、ソフト部の顧問をしていたしね」
神坂先生が答えている。
‘甘いな’と、私は思った。
実は、今のこのチームは、県でベスト4に入るほどの実力を持っていた。
去年の夏、先輩が引退してから、
私はまず、体力増強の練習方法を取りいれるよう努めた。
夏の暑い中、筋トレ、外周を毎日こなし、身体を作った。
グラウンドでする練習は、
部活時間の3時間のうち1時間という日が続いたが、
それでも9月の新人戦ではベスト4までのぼりつめた。
その結果を知っているならば、
どれだけ私たちが練習を真剣にするべきか分かるだろう。
休憩ならともかく、練習中に雑談などは必要ないのだ。
軽率に話しかける美月も美月だが、
真面目に答える先生も先生だ。
あとから自己紹介の時間を取ると、言っていたのに。
私の気持ちはもう、その時点で、先生から遠ざかっていた。
何故かというと、美月が話しかけたことで、
他の部員も緊張が解けたのか、先生に話しかけ始めたからだ。
こんなのでは、良い練習になどならない。
私はとりあえず、もう一周ノックをしてもらい、
練習を切り上げることにした。
その時、15時を少し過ぎた頃だった。