グラウンドに礼をして、準備体操を始めた。


キャッチボール、トスバッティング、バント練習、フリーバッティングと、

練習メニューを着々とこなしていくと、


いつの間にか、14時40分がきていた。



「先生、今からノックなんですが…

 お願いしても構いませんか?」



「あぁ、いいよ、

 いつもはどんなふうにしてるの?」



練習の間、ベンチに座って、ずっと黙って

こちらを真剣に見ていた神坂先生は、


そう言いながら立ち上がって、

バットを手にとった。



そのバットは、私がいつも使っている、

黒い、少し軽めのバットだった。



「そうですね…

 最初は軽く、サードから順番にお願いします


 2,3週したら、実践的にしていくんですが…

 指示は私が出していくので、

 好きな所に打って下さって構いません」



私は、彼の人から少し目をそらしつつ、説明した。



「分かった、じゃあ、始めようか」


仕事を与えられて、

どうやら先生ははりきっているようだった。


でも私は、そんなことすら、

冷たい眼で見ることしか、出来なかった。



「15時半から、野球部がグラウンドを使うので、

 15時10分には終わらしたいんです

 グラウンド整備もしなければならないので」



それを早口で言い、先生の返事を待つことなく、

私はショートの方へ向かった。


他の皆は、もうすでにポジションについている。


バッターボックスに立つ先生の方を向くと、

先生はキャッチャーの子と話していた。



‘黒い人だ’



黒いジャージに黒いTシャツ、黒いスパイク、

その上、私の黒いバットを使っている。



彼と初めて会った日に、

私が彼に対して持った印象は、



‘黒い’ということのみであった。