「その、‘翔野’って子は、君の彼氏だったの?」


ずっと、黙って、結木の話を頷きながら聞いていた小暮が、

思いついたように口を挟んだ。




「ええ…、私と翔野…大月君って言うんですが、

 私たちはその頃、付き合ってたんです

 クラスは違うかったんですが、塾が同じで…

 向こうから告白してくれて…」



「大月君って、どんな子だったの」



聞き返す小暮の口調は、結構真剣だった。



「そんなに気になりますか」


と結木は少し笑った。



「気になるよ、

 おれ、これでも結構、嫉妬するんだよ」



小暮が苦笑する。


確かに小暮は、外見もさっぱりしていて、

性格も穏やかで、飄々としている印象を受ける。


だからここまで言ってくる小暮のことを

結木は意外に思っていた。


しかし結木が小暮に対して抱いている気持ちには、

「嫌悪感」はなかった。



むしろ、少し嬉しく思ってさえ、いた。





「もう、過去の人なのに…そんなに気になります?」


結木がこう聞くと、

小暮は顔をふっと前に向け、苦笑して



「気になるよ…何となく…

 これが嫉妬かどうかは分からないけれど…



 ただ…


 君の‘忘れられない人’っていうのは、


 

 ‘大月君’という子では、ないんだね」



結木は、少し目を見開いて、じっと小暮の目を見据えた。


しかし、言葉を発することはなかったし、

首を、縦にも横にも振ることはなかった。


結木が何も言うつもりのないのを察してか、

小暮が続けた。


「君の‘忘れられない人’というのは、





 ‘神坂先生’という人なんだね」