追跡者 アミール編 | MACふん戦記

追跡者 アミール編



三日後、市長にアミールが呼ばれて市長室に入ると何人かの猟師と東堂や檜村が待っていた、指定された席に着くと市長の金子がこれまでの経緯と白い悪魔の掃討作戦の説明が始まった。

総勢10数人の猟師達は赤岳に登るルートを3つに分け、白い悪魔を追い込む作戦だ、裏ルートの2つは朝日岳側からH市の猟師数人が受け持ちアミールと檜村がAルートを、東堂達はBとCに別れて捜索にあたる事が決められた。

ただ市長から動物愛護団体に作戦を知られると、面倒な事になると念を押される、隠密作戦になるようだ。

アミール達が捜索する熊は普通の熊ではない、5年前小さな村で一人の少女がクマに襲われ亡くなる事件が起きた、大規模な熊狩りが行われたが熊は姿を消した、1年が過ぎ捜索チームは縮小され檜村だけが追っていた。

翌朝檜村達は市の公用車でAルートに向かっていた、助手席でタバコを吸っていた檜村がため息まじりに口を開く、

「奴が何故白い悪魔と言われるのは、体毛が灰色で片目が無いおそらく突然変異かもしれん体重は目撃談によると600以上はある、とにかく利口な奴だ俺の追跡を何度もかわされた」

「片目がないのも突然変異!」アミールが聞くと。

「おそらく奴が子供の頃人間に何かされて目を失ったかもしれん、俺の推測だがな」

檜村の眼には憎悪が隠されていた、話終えると彼は新しいタバコに火をつける。

「東堂さんは高齢なので大丈夫でしょうか」

「いや、彼は若い頃、東南アジアで狙撃手として5年ほど戦場を駆け抜けたからな、最強のハンターだ」

「東堂さん、傭兵だったんですか」

二人を乗せたSUVは壮大な大雪連峰を仰ぎ見る、赤岳の入り口Aルートに着くと、車を降り二人は銃と装備品を担いで雪深い山道を登りはじめる。


山小屋の朝は冷えて、外は吹雪で今日はとても捜索どころではない。檜村が朝食を終えタバコに火をつけると、

「これは2、3日足止めかな、まあ山の天気は気まぐれだからな」

アミールは苦笑いすると、そばの無線機から東堂の声が、

「こちら東堂、奴の足跡発見これより追跡する」

「了解、気をつけてこちらは吹雪で身動き取れません、何かあれば連絡ください」

「了解!」アミールが無線を切り檜村をみる、

「東堂のCルートはここから数キロ離れている、キャンプの用意をしとくか」

山小屋の食料と水は1週間分のストックがある、檜村は地図を広げ何やら訳のわからない事をぶつぶつ呟きながら作業を始める。


 どうやらこの悪天候であるのに応援に出かけることになりそうだ、アミールは自分のリックに携帯用食料などを詰め込む、SVD特別仕様の弾丸も忘すれずに予備弾倉にセットする、山小屋のドアの隙間から風の音が漏れてくる、曇りガラスの窓に雪が叩きつける外は相変わらず猛吹雪だ。


「SVDは、ソビエト連邦が1958〜1963年に開発したセミオート狙撃銃である。
作動方式: ガス圧利用(ショートストロークピストン式)、ターンロックボルト
使用弾薬: 7.62x54mmR弾 全長: 1,225mm 口径: 7.62mm 有効射程: 800m」



数時間後二人は、山小屋を後にする嘘のように晴れ渡った空の下を檜村とアミールはCルートを目指していた。

東堂達はコースを外れ足跡を追っていたが、すっかり凍りついた川の上に雪が降り積り奴の足跡が消えていた。

東堂達は追跡を続ける凍りついた川の上はかなり危険だいつ氷が割れるかもしれない。

彼らは周囲を見渡し、何とか先に進む方法を模索していた。

川の上を慎重に歩みながら、足元に気を配りながら進んでいく、しかし雪が積もりすぎており、足場が不安定であり、川の氷が薄い可能性も考えられる。そこで、彼らは慎重を期して足元の氷の厚さを確認することに、

東堂はアイスピックを使いながら、川の氷を突き、その厚さを計ります。思った以上に氷は薄く、彼らを支えるには十分ではなくさらに、川の下には流れる水があり、落ちると凍死してしまう可能性がある。

東堂達は迷った末追跡を諦め、川の上を慎重に後退し、元の道に戻ることにした。彼らは冷静さを保ちながら、より安全なルートを探し、無事に山小屋にたどり着くことを願っていた。


 檜村達は原生林を抜け朝日岳の稜線が見えるほど視界が開けた、その先には東堂達の山小屋があるだが100メートルも歩かないうちに風が強くなり目の前が白一色に染まり二人は立ち往生する、穴倉を見つけホワイトアウトが収まるのを待つ事になる。

アミールはシートの上で無線機を取り出し東堂へ呼び掛けたが、応答はなく雑音だけが耳に残る、視界が戻るまでアミールはお気に入りのスタンドバイミーを聞くことにするiphonを取り出すとイヤホンから曲が流れる、アミールは曲を最後まで聴くこともなく、意識を失う。

シベリアの極寒の中を父と二人で猟をしていると、突然銃声が耳を抜けると隣にいた父が静かに倒れていくのがゆっくりと目に映る、涙は氷ついて流れないアミールは動かない父の側で立ちすくんでいた、肩を後ろから揺すられ振り向くと紗奈が叫んでいる、「起きるんだ!」。

檜村の声が耳に轟く、咄嗟に銃を探るアミール。

「起きたな、そのまま眠り続けると死ぬぞアミール」

悪夢を見ていたようだ手にはiphonを握っていた、

「アミール出掛けるぞ視界が戻っている、東堂達の山小屋へ行く」

一時間程歩くと丘の上に山小屋の屋根が見えてきた、深い雪の中を登る檜村が突然立ち止まると双眼鏡を取り出し山小屋に向ける、アミールがいぶかしげに檜村を見る。

「様子が変だ、胸騒ぎがするアミール銃を」



用心深く登り着くと山小屋の中に二つの無残な遺体があった。