鞆の浦景観訴訟の判決要旨 | 全国一斉 鞆の浦検定(鞆ペディア)

鞆の浦景観訴訟の判決要旨

 鞆の浦景観訴訟で広島地裁が1日、言い渡した判決の要旨は次の通り。
 【慣習排水権や漁業権利に基づく訴え】
 慣習排水権を根拠に差し止めを求めることはできない。漁協は漁業権を放棄し、組合員らは公有水面で漁業を営む権利を失っており、同権利を根拠に差し止めを求めることもできない。
 【景観利益に基づく訴え】
 鞆の浦の景観は、美しいだけでなく、歴史的、文化的価値を有し、近接する地域内に住み、その恵沢を日常的に享受する住民の景観利益は法律保護に値する。公有水面埋立法は、景観利益を保護に値する個別利益として含むと解釈される。住民は景観による恵沢を日常的に享受しており、法律上の利益を有する。埋め立てられれば、景観利益について重大な損害を生ずるおそれがあると認められ、これを避ける他の適当な方法があるともいえない。従って、景観利益を有する者の訴えは適法である。
 【争点の判断】
 広島県や福山市が予定している対策は景観侵害を補てんするものとはなり得ない。景観の価値は私法上保護されるべき利益であるだけでなく、瀬戸内海における美的景観を成すもので、文化的、歴史的価値を有する景観としていわば国民の財産ともいうべき公益だ。しかも事業完成後にこれを復元することはまず不可能。事業が及ぼす影響は重大で景観を侵害する。政策判断は慎重になされるべきで、調査や検討が不十分だったり、判断が不合理である場合には、埋め立て免許は合理性を欠き、裁量権の範囲を超える。
 【調査や判断の合理性】
 道路は劣悪で改善の必要性もあるが、コンサルタントの調査は不十分だ。山側トンネル案でも混雑は相当解消され、景観保全を犠牲にしても架橋しなければならないかは疑問だ。コンサルタントの調査だけに基づいて県知事が判断するのは合理性を欠く。
 【公共性の判断】
 駐車場が不足しているが、地区中心部に確保する必要はなく、分散して整備することも検討されていない。フェリー埠頭の整備は島民の生活の向上に資するが、埋め立てによらずに整備する方策を検討すべきなのにその証拠がない。災害時の避難地としての埋め立て地の利用は格段に効果があるとはいえない。現状の道路網では下水道の整備ができないとの事業者らのパンフレット記載は、ほかの工法の可能性を排除しており誤りだ。
 【結論】
 埋め立て事業の計画は必要性や公共性の根拠となっている点について調査や検討が不十分か、一定の必要性や公共性があったとしてもそれだけでは埋め立てを肯定する合理性を欠く。よって知事が埋め立て免許を出すのは行政訴訟法の裁量権の逸脱にあたり、これを差し止める。


<中国新聞(初版:10月1日12時50分)>


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