撤退のモデルケース/川辺川ダム | 全国一斉 鞆の浦検定(鞆ペディア)

撤退のモデルケース/川辺川ダム

川辺川ダム—撤退のモデルケースに

 走り出したら止まらない。そんな巨大公共事業の代表格だった熊本県の川辺川ダムが、建設中止に追い込まれる可能性が高くなった。

 蒲島郁夫知事が県議会で「ダムによらない治水対策を進め、川と共生するまちづくりを追求したい」と反対を表明したのだ。

 川辺川ダムは国土交通省が計画を進める九州で最大級のダムだ。河川法では「知事の意見を聴かなければならない」と定められているだけだが、さすがに知事の反対は無視できないのだろう。国交省は「今回の判断を重く受け止める」という談話を出した。

 国交省はただちにダムから撤退し、川床を深くしたり遊水池をつくったりする治水対策に手をつけるべきだ。

 川辺川ダムの建設には、もともと無理があった。治水と利水、発電の多目的ダムとして40年以上も前に計画されたが、農業用水を供給する利水と発電からは撤退していた。350億円だったはずの事業費は3300億円にまでふくらんだ。清流が失われる、と地元の漁協や住民が反対し、完成のめどすら立たなくなっていた。

 そんななかで、今春の知事選に立候補した蒲島氏は「半年後にダムの是非を判断する」と述べ、当選した。この間に有識者会議を開き、ダムの必要性を吟味した。建設予定地の相良村の村長、治水の恩恵を受けると言われた人吉市の市長が反対を表明した。

 ダムを造るにはあと1千億円以上かかる。熊本県の負担は300億円以上になる。熊本県は財政難に陥っており、知事自身が月給を100万円カットしているぐらいだ。そんな財政事情も判断の根拠となったのだろう。

 ここで引き返す勇気をきっぱりと示した蒲島知事の決断を評価したい。

 気になるのは「五木の子守唄(うた)」で有名な水没予定地域の振興策だ。住民の多くは村内の高台や村外に移転している。国交省からは「建設中止の場合、生活再建の支援はできない」との声が漏れてくるが、とんでもない話だ。

 ダムの本体は未着工で、まだ清流は流れている。地元の意向に沿って道路の建設や農地の確保などを進めるのはもちろんのこと、残された自然を活用する振興策を探ってはどうか。政府はきちんと財源の手当てをすべきだ。

 国交省が全国で計画を進める約150のダムの総事業費は9兆円を超える。国家財政が危機なのに、なかなか見直そうとしない。関西の淀川では、専門家や住民でつくる流域委員会が四つのダム計画に待ったをかける意見を出したのに、国交省は無視してダム建設の計画案を発表している。

 いまこそ、すべてのダム計画を再点検し、必要性の低いダムから撤退していくべきだ。川辺川ダムからの撤退をそのモデルケースにしたい。

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すばらしい!

田中正造 元首相のことば
「真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし」
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