本日は、庶民派イタリアンのチェーン展開で一躍有名となった「俺のイタリアン」について、その背後にある経営戦略について解明するとともに、飲食業に纏わる経済学について論じます。
飲食店の利益は「客単価×回転率」として簡易的に表すことができる。このとき、世の中の飲食店は4つに大きく分けることができる。
①客単価が大きく、回転率も大きい:
②客単価が大きく、回転率が小さい:イタリアン、フレンチなどの高級店
③客単価が小さく、回転率が大きい:ラーメン屋などの庶民店
④客単価が小さく、回転率も小さい:カフェなど
この前提で、②=高級店モデル、③=庶民店モデルとし、これらを両極とする「客単価」と「回転率」のトレードオフ的関係を見いだせる。一般に、「客単価」を上げるなら高級コース料理などに限られ「回転率」は下がるし、「回転率」を上げるならラーメンやカレーなどの庶民料理に限られ「客単価」は下がる。
今日の飲食業界では、斯様なトレードオフの中で一方の極を追及する二極化現象が生じている。つまり、高級店は高級志向に、庶民店は庶民志向へと一層偏向した経営戦略を展開しつつある。このとき、空洞化した中間エリアにブルーオーシャン(競合相手が少ない状況)が生まれる。ならば、このブルーオーシャンに参入し、②と③の両立を図る一挙両得な経済戦略を模索し試みるのは一見自然に思える。まさに①のような店づくりは理想である。
しかし、問題はそう単純ではない。競争戦略論に於いて「スタックインザミドル(中途半端)」という言葉がある。トレードオフの中間を狙って失敗することを指し、要するに「二兎を追うものは一兎も得ず」ということだ。飲食店の例で言えば、高級志向と庶民思考の両立を図っても、高級志向では高級店に劣り庶民思考では庶民店に劣るという、どっちつかずに陥る。両方のメリットを同時に実現することは実に難しい。
二兎戦略には大きく2つの方法がある。
飲食業の4つの競争要素「価格price」「料理production」「広告promotion」「立地place」に於いて、
(1)全ての要素で中間を狙う
(2)ある要素では1つの極を狙い、別の要素ではもう1つの極を狙う
スタックインザミドルに陥りがちなのは(1)である。多くの飲食店はこうして失敗する。一方で、(2)の方法により①のような店づくりを実現したのが「俺のイタリアン」なのである。価格は庶民志向、料理は高級志向という戦略である。要素ごとに志向を変えているため、高級店と比べた場合は価格の安さが強みとなり、庶民店と比べた場合は料理クオリティが強みとなり、いずれにも劣ることは無い。
収益面の話に戻すと、「俺のイタリアン」ではイタリアンに稀有な立食様式を採ることで「回転数」を上げる一方で、一流シェフによる高級料理を供することで「客単価」も上げる。価格設定については、ふつうの飲食店と比して高いが、同クオリティのイタリアンやフレンチと比べれば圧倒的にリーズナブルである。「回転数」が大きいからこそ大胆に価格設定を下げられるわけだ。そのため原価率60%という脅威の数字を誇る(原価率88%でも赤字にならないという驚愕のデータもある)。
①の理想的な経営戦略を巧みに実現したのが「俺のイタリアン」の偉業なのである。
それではまたいつか!!
