第4回加藤研自主ゼミの議事録です。

■日程: 09年7月5日(日)17:00-19:00
■場所: 東京財団オフィス (虎ノ門)
■形式:ゲスト講演+ディスカッション
■テーマ: 「ミツバチの目線と人間の目線~西洋ミツバチの失踪が意味すること」
■ゲスト: 藤原誠太氏
 日本みつばち在来種養蜂家
 藤原養蜂場場長
 (有)藤原アイスクリーム工場専務取締役
 日本在来種みつばちの会会長
 東京農業大学客員教授(バイオビジネス)

■参考記事:
・JIメールニュースNo.396 / 2009.04.16 「ミツバチの失踪が意味すること」
 http://www.kosonippon.org/mail/bk090416.php
・食と農の応援団 藤原誠太さん
 http://www.ruralnet.or.jp/ouen/meibo/384.html
・BROWN RICE│Our Network│藤原養蜂場 藤原誠太さん
 http://www.brown.co.jp/network/issue_004.html
・セブン-イレブン みどりの基金 日本ミツバチに学んだこと
 http://www.7midori.org/katsudo/kouhou/kaze/miserarete/09/


■議事録


▽1.主旨説明(加藤先生より)

 ・自主ゼミの説明(大学内部にとどまらず外でも面白いことをやろうという試みで、加藤研の現役学生とOB、その他大学の学生で構成されている。)
 ・東京の桜は散りが悪い。なぜかというと、虫が少なく、なかなか受粉できないため、花としての目的が達成できないので散らないのではないかと考えられている。
 ・ミツバチには西洋ミツバチと日本ミツバチがあり、今流通している蜂蜜の多くは西洋ミツバチである。日本ミツバチは原生種であり、蜂蜜はなかなかとれないが、藤原さんはそれに取り組んでいる。


▽2.藤原氏の講演

 【日本の養蜂業と養蜂家となった経緯】

・かつて蜂に刺されて極度に体調を崩したこともあり、養蜂家は難しいと思っていたが、とにかく生き物が好きだった。
・祖父が北日本の寒さに強い種のミツバチで養蜂を広めており、原始的で、自然な形で養蜂をしていて次第に興味を持つようになった。
・かつて多くの養蜂家が、ブラジルに渡りその環境の良さについて祖父に語りに来ていた。高度成長の傍らで、昔ながらの養蜂家にとっては厳しい時代が始まっていた。
・大学ではミツバチ研究会に入会。その頃、ごく小さな虫が重要な生態系の一部であるということを意識するようになっていた。
・蜂蜜は砂糖代わりのただの「甘みの一部」として考えられていた。戦後砂糖不足の折に蜂蜜の利用が進んだが、砂糖の輸入が自由化した後、日本の養蜂家は厳しい経営環境に追い込まれた。


 【西洋ミツバチと日本ミツバチについて】

・もともと日本においては養蜂は日本ミツバチから始められたものだが、明治20年あたりから西洋ミツバチが入ってきた。
・神戸にはじまり、岐阜が西洋ミツバチの産地となった。
・西洋ミツバチは、体に品種改良を加えられてたくさん蜜が運べるようになっている。
・西洋ミツバチは100キロの蜂蜜がとれるのに対し、日本ミツバチは7キロしかとれない、という割合である。
・日本ミツバチと西洋ミツバチの巣の違い:西洋ミツバチはプロポリス、樹脂とまぜて巣を堅く作る一方で、日本ミツバチはプロポリスも集めてこないため、巣は脆く、やわらかい。崩れやすい。
・西洋ミツバチは、木の樹脂からプロポリスを集めている。日本ミツバチは、プロポリスを集めなくても、自らの殺菌力で生きていける。
・日本ミツバチと西洋ミツバチは交配しても、子供はできない。一部細胞を入れることはできても、どこかで不具合が発生する可能性がある。
・西洋には大スズメバチがいないため、巣を襲われると撃退することができない。一方日本には昔から大スズメバチがいたため、羽の元部分のエネルギーを使って体温を上げて撃退することができる。
・日本ミツバチの場合は蜜の中に様々な花の種類のものがまざっているが、西洋ミツバチはほぼ特定の花の蜜を集める。
・西洋ミツバチの場合、ハウスに入れると異常な生理現象をおこさせる形となり、死ぬ。もともと湿度の高い南アジアの原種の日本ミツバチは死ぬことはなかった。
・原種のミツバチは環境が悪くなればそこから出て行くが、西洋ミツバチは品種改良され箱から出ないようになっているため、いわば病気を抱え込んだ状態になる。


【蜂の生態について】

・蜂の針はメスのみにあり、産卵管が変化したものと考えられる。
・蜂は無精卵の場合にオスになる。つまりオスには男親はいないことになる。神秘的で、かつ大変効率的な社会になっている
・蜂1匹の寿命は大人になってから1ヶ月未満。冬越しは6ヶ月まで生きる。
・1日に2000匹の蜂が生まれるが、1日で寿命で1000匹死ぬ。
・羽化後6日の期間のうちの3日間のみローヤルゼリーが与えられ、残り3日花粉を食べるのは働き蜂。6日のうち6日間ローヤルゼリーが与えられたわずかなハチだけが、女王蜂となる。
・巣はほぼ無菌に近い状態で、大変清潔。
・蜂のダンスを分析すれば、太陽に対して飛んでいく方向も、花木までの距離も蜜の量もわかる。箱の中でおどる。まわりの蜂がそれを感じて同じように踊りだす。だからみんなが同じ花のところに行くことができる。
・蜂は紫外線を見る(感じる)ことができる。
・蜂は蜜をとってきて結晶しないように保管できる。冬を越したとしても同じ。人間が採って保管すると固まってしまう。そのため80度で加熱する必要が出てきて、色がついたり味がぼけたりする。


【蜂蜜について】

・蜂蜜はミネラルが多いものの方がより色が濃く、味わいも強い。ただしミネラルは多ければいいというわけではない。ミネラルはアクであり、良いものも悪いものもある。
・蜂蜜はPH3であり、殺菌力が強い。病原性大腸菌やボツリヌス菌などの菌類も、蜂蜜の中に入れるとやがて死滅する。
・蜂蜜を1歳未満の幼児に与えていけないというのが通説だが、それは情報が歪められた形で伝わっていると考えている。
・養蜂では、蜂の病気予防のため、花粉代わりのきな粉などに抗生物質をまぜたりしている。ウナギやふぐには抗生物質が混ざっていても大丈夫なのだが、蜂蜜に少しでも混ざっていたら没収となる。
・昔は「弁当蜜」といって冬を越すための蜜を残す文化があった。また、かつては売れ残った蜜を蜂に戻すこともしていた。


【ミツバチの大量死について】

・ミツバチの大量死は日本には発生しないと考えられていたのだが、実際に起こってしまった。一部では大量死は自然現象やダニの発生が原因と考えられているが、ネオニコチノイドという人間にやさしいとされる農薬が原因で発生したと考えられる。
・ミツバチは農薬に非常に弱い。人間が摂取してよいネオニコチノイドの200分の1の摂取量で蜂は死んでしまう。
・岩手県においても、米に利用した農薬が影響し、ミツバチと蚕、昆虫全てに効いてしまい、大量死が発生した。飼っていた蜂の半数以上が死んでしまった。ネオニコチノイドはもともと、蚕とミツバチのいる地域では使用を禁止されている。
・最近出ている網戸に虫が来ないようにするための用のスプレーや、犬のノミとりにも、ネオニコチノイドが使われている可能性がある。
・有機リン系の農薬の場合は、蜂は巣箱の中に居た分は生き残ったが、ネオニコチノイドの場合は巣箱の中にも残らなかった。
・普通、蜂は花と箱の間のどこかで死ぬ。老衰の場合は巣箱から5~20メートル先で死ぬはずである。現在養蜂している環境では、1部に固まる形で死んでいることがわかった。一番明るい場所で蜂は死んでいる。知覚が異常になっていることの現われではないか。
・ネオニコチノイドは紫外線があたると分解されるもの。つまり、太陽の光にあたらないと植物はネオニコチノイドを蓄積し続ける。ネオニコチノイドが蓄積された際に蜂が来て、おそらく幼虫の頃に摂取し、その影響で蜂が死んだと考えられる。ネオニコチノイドの場合、蜂は正常な筋肉がありながら、目が見えない状態で死ぬ。
・赤とんぼが10年前からいなくなったのも、同じ原因と考えられる。


【農薬と自然への影響について】

・有機リン系農薬は洗えば取れるが、ネオニコチノイドは洗ってもとれない。
・農薬は、昆虫の脳にチャンネルを合わせてつくられたもの。認知症のような状況を起こさせて社会を壊していくものである。人の体にたとえれば蜂は集団でそれぞれ手なり足なり口なりの役割を担っていると考えられる。それを一つ狂わされれば全てに影響する。
・もともと蜜は花のものであり、ハチは花の受粉を手伝い、それそれバランスをとってお互いに利益を享受していることで成り立っているのが、人間がその自然に対して手を加え、介入したことでバランスが崩れていると考えられる。
・また、大量の農薬に接することで人にも「科学物質過敏症」の被害が発生している。たまたま人間にあるはずの酵素が欠けているためにおこっている症状である。この場合、ネオニコチノイドは少量でも人に影響し、心筋梗塞、不整脈が発生する。有機リン系をやめ、ネオニコチノイドを利用した結果、このような状態が発生している。「化学物質過敏症」は、今年の10月から難病に指定される予定。
 
▽3. 質疑応答

・ミツバチを品種改良して同じ種にしたから全体で弱くなったという話があるが、本当か?
 ⇒ミツバチの種類は今でもたくさんあるし、雑種である。そのため、品種改良で弱くなったとは考えにくい。我々は毎日蜂の様子をみていているため、突然大量死が起こったというよりは、何かの影響が少しずつ出ているという形で読み取っている。

・ミツバチの蜂蜜は、発酵するのか?
 ⇒日本ミツバチの蜜とミネラルウォーターを瓶に入れて、太陽の下においておくと、4日でお酒になる。日本ミツバチの蜜は、西洋ミツバチとはクセの強さが違い、飲みやすい。常在菌が違うのではないかと考えられる。ミツバチの強さは、花酵母と、胃の細菌の力であると考られる。
・大阪でも巣箱を置けば養蜂が可能か?
 ⇒大阪城付近ならできる可能性はあるが、なんばのあたりは難しいと思われる。

・スズメバチエキスというのは、効果があるのか?
 ⇒スズメバチの親は幼虫が出すエキスしか飲めない。スズメバチは戦うために食道が退化して液体しか飲めないからである。このエキスをマウスに与えたとき、通常30分で溺れるものが、1時間半程度溺れなかったとの実験結果がある。このため人間が摂取した場合も汗がでやすく、筋肉痛にならないとされている。

・次週、メンバーでディスカッションを行うが、どんな視点でのフィードバックが必要か
 ⇒「人間の目線とミツバチの目線の違い」「人間の目線と自然の目線の違い」はどうか。