その日と次の日、カエール侯爵はかなり忙しかった。昼食前、侯爵は名簿を確認していたときのこと。
私は本を読みながら、様子を見守っていた。少し咳が出て、侯爵は手を口にした。そしてテーブルにもう一つの手を置いた。咳が止まり、侯爵が自分の手を見つめる。
皮肉的な笑みが浮かぶ。
私が近づいた。侯爵の手とテーブルにあった名簿に血。
「医者を」と私は言う。
「いい」と侯爵はきっぱり「体調はまだ克服していない上にジャンのこともあったし・・・」と。そして自分の持っていたハンカチで唇と手をきれいにした。「それに初めてじゃないし・・・水、とってもらえるかなぁ」
私は水をとり、そしてコップを渡した。唇の近くにまだ少し血があったから、私が手を伸び、きれいにした。侯爵は私の手を握る。
「休んだ方がいいと思います」
「名簿を作り終わったら、休むから。アリアネ、おいで」
「猫じゃありません」
「猫だったら、魚のワタシは食べられてしまう」と、私を自分の膝の上に座らせた。「殴られて、血を吐いてしまう時の方がマシ」
「どっちもよくないんです。もうすぐフランスア様が着くから、早く休んで、元気に振る舞えるようにした方がいいです」
侯爵は私を抱きしめて、胸に頭をおいた。休んでいるつもりなのかな。私はカエール侯爵を抱き返した。
少し立つと、ドアにノック。侯爵は答えない。もう一度ノックとドア越しに執事の声。
「フランスア様のご到着です」
「すぐ行く」
つづく