物語54 | Thinelの世界

Thinelの世界

私の描く世界へようこそ


  その日と次の日、カエール侯爵はかなり忙しかった。昼食前、侯爵は名簿を確認していたときのこと。
  私は本を読みながら、様子を見守っていた。少し咳が出て、侯爵は手を口にした。そしてテーブルにもう一つの手を置いた。咳が止まり、侯爵が自分の手を見つめる。
  皮肉的な笑みが浮かぶ。
  私が近づいた。侯爵の手とテーブルにあった名簿に血。
  「医者を」と私は言う。
  「いい」と侯爵はきっぱり「体調はまだ克服していない上にジャンのこともあったし・・・」と。そして自分の持っていたハンカチで唇と手をきれいにした。「それに初めてじゃないし・・・水、とってもらえるかなぁ」
  私は水をとり、そしてコップを渡した。唇の近くにまだ少し血があったから、私が手を伸び、きれいにした。侯爵は私の手を握る。
  「休んだ方がいいと思います」 
  「名簿を作り終わったら、休むから。アリアネ、おいで」
  「猫じゃありません」
  「猫だったら、魚のワタシは食べられてしまう」と、私を自分の膝の上に座らせた。「殴られて、血を吐いてしまう時の方がマシ」
  「どっちもよくないんです。もうすぐフランスア様が着くから、早く休んで、元気に振る舞えるようにした方がいいです」
  侯爵は私を抱きしめて、胸に頭をおいた。休んでいるつもりなのかな。私はカエール侯爵を抱き返した。
  少し立つと、ドアにノック。侯爵は答えない。もう一度ノックとドア越しに執事の声。
  「フランスア様のご到着です」
  「すぐ行く」


                                      つづく


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