麓の町まではパドルシフトでエンジンブレーキを利かせながら、九十九折りの山道を下った。1時間走ってもすれ違った車は2台だけだった。午前2時半、高速道路に乗り、アクセルを踏んで90km/hまでスピードを上げたところで、クルーズコントロールを入れた。あとはずっと、車を転がしていけば大丈夫だろう。ほとんど左脚ブレーキを使うことはなかった。
月曜未明の高速道路はすいていて、走っているのは定期便トラックばかり。都会に近づくと車の台数は増えたが、流れはスムーズでほぼ95km/hペースを守って走った。高速を降りて市内に入ったのは午前4時半。このあたりで尿意をもよおしたが、降りることはできない。なんとか堪えて自宅に着いた。途中で家の者にはケータイで電話しておいたので、車の音を聞きつけて迎えてくれた。
車を降り、必死にトイレまでケンケンでたどりつき、ひと息ついた。ここで全身に激痛が襲ってきて、まったく動けなくなってしまった。本当は近くの大学病院まで自分の車で行きたかったが、これはもう無理だろう。救急車を呼んでもらった。廊下の床に脂汗がぼたぼたと落ちるのを、ジッと見ているしかできなかった。
救急車のストレッチャーに横たわるだけでも痛みが走った。救急車の振動すらもつらく、車が小さくバウンドするたびに激痛を我慢した。しかし搬送先はすぐに決まらず、家から少し遠い市内にある救急専門病院へ運び込まれたのは5時半頃だった。
病院では最初にCTを撮影してもらった。胸や腕にも痛みがあったからだ。さらに痛み止めの麻薬と抗炎症薬の点滴。お陰で痛みはスッと抑えられた。当直医の診断では、右大腿骨頸部の骨折。それも断面がまっすぐでなく転位があるようだ。三次元に再構成した画像も見せてもらったが、あまり状態は良くないようだ。股関節置換術の可能性もあるらしい。
病室に運び込まれ、昼になって主治医が来るのを待った。結局、主治医が来たのはその日の夜。簡単な病状の説明と、手術が木曜(3日後)になりそうだということだった。救急病院だからすぐに緊急手術をしてもらえると思ったのは甘かった。主治医はスクリューでの固定術にする方向で考えているようだった。その晩は点滴の鎮痛剤ロピオンが良く効き、徹夜運転の疲れもあってよく眠れた。