ディック東郷の国内引退興業を観てきました。日本が世界に誇るレスリング・マスターの日本マットでの最後の雄姿をこの目に焼き付けてきました。
彼のこれまでの足跡を、時に文章で、時に映像で辿る度にその偉大さと尊さを実感しました。
「永遠に2011年6月30日が来なければいいのに・・・」
そう考えたことは一度や二度ではありません。
全試合開始前にリングに上がり、挨拶をした篠塚リングアナも「始めちゃうと、終わっちゃうから始めたくないんだけど・・・」と言っていました。それでも観なくてはならない。ディック東郷という稀代のプロレスラーの決めた最後を。新しい日々への始まりを―――
それでは、1試合ずつ振り返っていきたいと思います―――
第1試合 タッグマッチ
石井慧介&平田一喜vs松永智充&関根龍一
オープニングを飾るのは若手選手4人によるタッグマッチです。このカードの中で自分が注目していたのは、東郷が主宰していたレスリングスクール『スーパークルー』の2期生である松永智充です。
DDTマットではシット・ハート・ファウンデーションで本当に嫌なことをやっている松永ですが、この日ばかりはかつての師匠の日本で最後の興業ということで、ヒールファイトを封印。普段は隠している堅実なレスリング技術を随所に披露し、「若きいぶし銀」という通り名にふさわしい試合巧者ぶりを見せてくれました。
普段、松永は東郷の指導を受けたことをそこまで公にはしていません。それは彼なりのレスラーとしての意地や東郷への畏怖から来ているようなのですが、やはり「いくら体をぬるぬるさせようが、心が腐ろうが」ディック東郷のDNAは息づいているといいます。
この日も、普段は言わない「頑張れよ」という言葉を東郷からもらい、試合後のコメントスペースではその思いが涙となって溢れたようです。
今大会には何人も『ディック東郷の遺伝子』を受け継いだ愛弟子たちが出場していますが、松永もまた世界の東郷の遺伝子を体に宿したプロレスラーでした。
また、石井・平田の両選手にも、あの東郷が最後の居場所に選んだ団体に所属する選手という誇りを持ってこれからも戦ってほしいと思います。
第2試合 タッグマッチ
つぼ原人&たかぎ原人vs新崎人生&気仙沼二郎
今大会にはディック東郷に縁のある選手が何人も出場しており、どのカードも少しばかりエモーショナルナ雰囲気を纏ったものばかりなのですが、何故かこのカードだけは話が違います。
人生&沼二郎組は、当然東郷のキャリアにおいて非常に重要な期間を共に過ごしたレスラーですから不思議なところは微塵もないのですが、ここはその相手であるつぼ原人のパートナー、たかぎ原人に異議を申し立てたい!
そもそも何者なのか・・・と思ってパンフレットを開いてみる。何者なのか分からない存在なのにパンフレットにプロフィールが記載されていることへのつっこみは一切受け付けません。プロレス界でよくあること!
《たかぎ原人について分かっていること》
*出身地は新宿御苑・・・新宿に原人がいるなんて、いまどき東スポだって書かないよ
*この試合がプロレスデビュー戦・・・キャリア20年近い選手の中に全くの新人が一人
*得意技はゆずぽんキック・・・ゆずぽん本人以外でプロフィールにこう書く選手は全く信用できません
*原人のくせに高級時計が好き・・・たてがみやとさかの大きさでステータスが決まるようなものなのでしょうか
*発情するほどAKB好き・・・いかがわしい雑誌にコラムを連載するほど好きなのかな、とちょっと思ってみたり
何故これほどの細やかな情報が集まっているにも関わらず、基本的なデータが集まらないのだろうか。今試合がデビュー戦であるころは分かっているのに「プロレス歴」の欄には「不明」と書かれているし・・・。この辺がプロレスマスの愛すべき詰めの甘さではあるのですが。
そして実際に現れたたかぎ原人は、もはや原人というよりは猿人くらいの知能レベルしか無いのではないかと思えるほどの低能さでした。つぼ原人の方がよっぽど大人に見えました。
一部では「原人界に失礼だ」「きもい・・・」などという厳しいコメントも散見されるほどのクオリティとゆるい空気をまとった、どこか毒蝮三四郎にも通じるような雰囲気でした。
試合は原人コンビがやりたい放題で、時折り響く沼二郎選手の「何やってんだよー!」という至極真っ当な叫びが原人たちのファンタジーさとの乖離が激しく、非常にシュールなおもしろみがありました。
第3試合 ガントレットタッグマッチ
①MEN'Sテイオー&HANZO ②グラン浜田&スペルデルフィン
③男色ディーノ&飯伏好太 ④KUDO&マサ高梨
⑤GENTARO&ヤス・ウラノ ⑥HARASHIMA&星誕期
⑦石川修司&ビッグ諸橋
この試合は東郷とユニバーサルの時代からつながりのあるスペルデルフィンやグラン浜田から、東郷にとって最後の所属ユニットであったグランマまでを網羅したバラエティに富んだメンバーによるタッグマッチでした。
このメンツの中では、やはりデルフィンについて触れなくてはなりません。
東郷の大阪プロレス離脱に伴うあまりにも確執を思えば、デルフィンの参戦には「よくぞ間に合ってくれた」という感慨があります。
お互いに口を利かないことなど当然で、みちのくのノスタルジックツアーで共に帯同していながら移動も控え室も別々とういうこともありました。今の大阪MoveOnアリーナがまだデルフィンアリーナと呼ばれていたころは、たとえDDTの興業であっても東郷の出場はありませんでした。
2人がけんか別れしてから、すでに10年以上が経っており、2人の和解というのはプロレス業界に数あるありえないことのうちの一つでありました。
しかし、今年の4月にDDTが沖縄での興業を電撃的に初開催し、その折に東郷はひっそりとデルフィンと会ったそうです。先述のとおり、2人の決裂からはすでに10年以上も経っておりお互いに引っ込みがつかなくなったところがあったのだと思います。東郷の国内引退を目前にして、ついに2人の和解が相成ったのです。
さらに、6月5日、東郷にとって最後のみちのくプロレスでの試合でサスケと一騎打ちを行い、それをぶち壊しに乱入してきた九龍に対して、デルフィンが飛び込んできて、なし崩し的に東郷&サスケ&デルフィン組というありえないにもほどがあったトリオが完成するというドラマチックでドリームな展開も観ることができました。
あの日、自分も客席でこの一連の流れを観ていたのですが、デルフィンがリングに飛び込んできた際には思わず腰が浮きました。非常に感動しました。あの日、あの瞬間に後楽園ホールにいて、あの奇跡を目撃できたことは一生の自慢であり、ディック東郷国内最後の大会にデルフィンの名があることに大変な喜びを感じます。
その他にも、海援隊DXでの同士であるテイオー、HANZO、最後に東郷の薫陶を受けたDDT・ユニオンの面々も出場と、さながらディック東郷の略年表を観るかのような気持ちで観戦しました。
試合の方は、ノスタルジックな絡みと男色先生やディーノさんや男色ディーノらによる変幻自在の闘いが複雑に絡み合うとてもアツい闘いが繰り広げられました。
第4試合 6人タッグマッチ
日高郁人&石井智宏&佐々木大輔vsカズ・ハヤシ&FUNAKI&佐藤悠己
この試合も、また、東郷の歴史がぎっしり詰まったマッチアップです。日高郁人&石井智宏のFECとカズ・ハヤシ&FUNAKIの海援隊☆DXに、東郷主宰のスパークルーの1期生である佐々木大輔と佐藤悠己がそれぞれ入る形となります。
どちらのユニットも日本プロレス史に名を残すような偉大なユニットであり、東郷自身も非常に思い入れを持って活動していたものです。そんな2つのチームに、レスラーとして必要なものを手とり足とり教え込んだ愛弟子の名を並べるあたりに佐藤茂樹という人の優しさが垣間見えます。
もちろん、海援隊☆DX・FECの名を汚すような技量の選手であれば、東郷もこんなカードは組まなかったでしょう。佐々木大輔、佐藤悠己の両選手がそれぞれにしっかりとした成長を遂げたからこそのカードと言っていいと思います。
試合の方では、どの組み合わせもなかなかに新鮮で、日高vsカズなどはかなりのプレミアなマッチアップでした。FUNAKIvs石井智宏という異次元な絡みも観ることができました。
そんな中でも、決着は佐々木と佐藤の間でつきました。「東郷の弟子」という肩書にふさわしい闘いぶりでした。最後に、粘る佐藤を一瞬の切り返しでNOW OR NEVERで沈めた佐々木の勝利でしたが、試合後に見せた佐藤の本当に悔しそうな顔がすごく印象的でした。きっと、師匠が最後に用意してくれた檜舞台で良い結果を残せなかったことがよほど悔しかったのでしょう。
試合後には日高とカズが睨みあう場面などもあり、何か次に発展していってくれたらいいなぁと期待もしてしまう試合でした。
第5試合 タッグマッチ
邪道&アントーニオ本多vsザ・グレート・サスケ&TAKAみちのく
今大会で、自分が最も多くの量の涙を流したのはこの試合です。
もう、アントンが素晴らしくかっこよかった。とにかくかっこよかった。
ディック東郷最後の弟子であるアントーニオ本多というレスラーが、“東北の英雄”サスケや“宇宙人”TAKAみちのく、“コンプリートプレーヤー”邪道と同じカードに名前を連ねている事実がたまらなく東郷の愛に溢れていると思うのです。
それを考えていると、アントンの入場テーマが聞こえてきた時点で涙が溢れそうになりました。そして、最近、選手としてのベクトルに若干の変化が見られる邪道とのあまりにも刺激的なタッグが胸を打ちます。
サスケ、TAKAに代わる代わる攻め立てられるアントンを、直接手を貸さずとも、コーナーから檄を飛ばす邪道。この光景を見ていると「このカードはアントンのためのかーどなのではないか」と思えてしかたないのです。
このカードの内包するテーマとしては、様々あると思うのですが、自分の中ではアントーニオ本多というレスラーの生きざまを見せるというのが心の大半を占めていました。
サスケからコーナーに頭を何度もぶつけられる中で、突如としてワンショルダーをノーショルダーにしてナックルを叩きこむ姿にグッときてしまいました。
カウンターのテーズプレスを放つアントン、邪道とタッチを交わすアントン、愛をこめたダスティを打ちこむアントン・・・どれもが抜群に絵になる姿でした。
それは、これだけの豪華なメンバーの中に一介のインディーレスラーをキャスティングした東郷の愛に必死に応えようとする姿だと思うのです。この一試合の中でサスケやTAKAに何発も打ち込んだ拳には、そんな師の愛に負けないくらいの愛がこめられていました。最後は敗れてしまいましたが、この日の後楽園ホールはアントンの愛に沸いていました。
続く、、、