始めは遠く遠くから見てる
それだけで十分だった

たった一度の会話が宝物だった

覚えていてもらえたら泣きそうだった

遠く見つめていたあの笑顔がすぐ目の前にあった

もっと見ていたくて
何度も見たくて

会いに行ってしまうよ



「…また、来てしまいました」

もうね、どんどんよくばりで
会えない日々を指折り数えて心が泣くの

知ってる?
声をかける前の胸の高鳴り
ふるえる脚
見つめられるたび「見ていたい」と「恥ずかしさ」で揺れる葛藤
見送った後の抱きしめたくなる幸せ

出会って知って
世界が色づいた


あなたの傍にいられたら
どんな景色なのかな
真っ赤
ぱちんっ

真っ青
ぱちんっ

真っ黒 ぱちんっ
真っ白 ぱちんっ

ぱちぱちぱち
ぱちんっ!

真っ暗


「がはは。地平線の果てまで消えちゃえ」

臆病な自分も、醜い自分も、弱い自分も、全部消えちゃえ

なんにも待ってなんかないんだから
だれも立ち止まってなんかくれないんだから


パッと消えて

パッとあらわれて


お願い
キミは消えないで

しずくのあとの足長おじさん
心はどんどん複雑な形をして色は淡くなり、
過去を振り返っては輪郭は濃くする


何かの拍子に輪郭の一部とソレが重なって

そんな時はただただ泣きたくなる


失くした色を思い出す
愛しき時を呼び覚ます

こんなになってしまった私


でこぼこで不格好な私の心を埋めてはくれまいか

その手で


嗚呼、君に触れたいよ

この手で
私は私の輪郭を探す
どこまでが私で、どこからが私でないのか


触れても分からない時は




あなたに教えてもらうわ


「ねえ、私ってどんな形?」
外へ一歩出たところで足が止まった。屋内とは比べものにならない気温だ。
人間とは可笑しな生き物で、誰に伝えるでもなく言葉を発することがある。

「―――、‥さっ……


「さむいね、きょう」




見ず知らずの奴に語尾をさらわれてしまった。



「さ…っ!……別に、こんなの寒くないです」


咄嗟に否定してしまった。
悪い癖だ。


「そう?」


彼はそう言うと
マフラーを置いて行った。


「使いたくなったら、使ったらいい」


手渡されたのは橙・青・白のストライプ。



「ぁ……あ、あのっ!!」


顔をあげた先に彼の姿はもう見当たらなかった。




「なんなんだよ………」


沢山のものを
盗まれた気がした。