この前、祖父の通夜に行った。それはとても悲しかった。


数日前まで生きていた人間が突然いなくなったのだ。なす術も無く、私はただうろたえるだけだった。


遺影が飾られ、住職がお経を唱えている間、自然と涙がこぼれた。


子供の頃から良く可愛がってもらったっけ。夢を話せば必ず笑って「叶うといいね」と言ってくれたっけ。そんな今までの思い出が頭の中を駆け巡る。


すすり泣き、男泣き、隠れ泣き、耐え忍ぶ。周りの人々も様々な対応だった。


たった一人死んだというだけで、どうしてこんなにも悲しいのだろう。私は涙を拭きながら、それでもぼやける視界で前を見た。


と、何かの気配を感じた。


私は辺りを見回した。姿は見えないが、明らかに人ではない、何かがそこにいるのだとわかった。


気がつけば焼香が始まった。親族が次々と行っていき、私の番になった。


親族に一礼、友人席に一礼、焼香を三度横にまき、祖父に合唱し一礼、親族に一礼。その行程を終え席に帰ろうとした。


部屋の隅にそれはいた。


一人の少女がなにやら困ったような表情をしているのが見えた。しかし、服装も葬式には到底似合わぬ白のブラウスに紺のスカートという姿であり、またさっきまでここにいたとは思えなかった。


それが霊だと気づくのにはそう時間はいらなかった。


だが、危害を加えるような様子は無かったので、私は特に気にしない事にした。


焼香も終わり、お経を唱え終えた住職が部屋から出ていき、その日の通夜は終了となった。


私は部屋の隅を見た。そこには誰もいなかった。



次の日、告別式のため、またその場所に向かった。


住職のお経から始まり、若干飽きが来ていた頃、あの少女は部屋の隅にまたいた。


一体何しに来ているのだろうと考えていると、葬儀の準備に取り掛かるため部屋から出された。


見間違いではない事を確信した私は、兄にそのことを話した。


しかし「そんなの見ていない」と一蹴されてしまい、どうしたらいいかわからなくなった。


やがて、棺に祖父が入れられ、皆で最後の別れをした。花を散りばめ、なんだかわからないありがたそうな紙を散らし、蓋が閉められた。


その間、少女はいなかった。


その後火葬場まで移動し、焼却炉の前に来た。棺が見えなくなるまで皆で見守っていた。


いくらか待機し、遺骨を骨壷に入れる時、ふと祖父の顔を思い出した。


一等航海士や通信士、ボイラー技師などの資格を持ち、船のエキスパートとまで称された祖父の笑顔はもう見れない。また涙が流れた。


火葬も終わり、葬式場に戻っていった。やけに右肩が重いことに違和感を感じたが、ただの疲れだろうと気にしない事にした。


住職による最後のお経を終え、何か意味はあるだろうけど深くはわからない食事をしていた。悲しみばかりに明け暮れていないでお酒によって気分を入れ替えていた(勿論、私はお酒なんて飲んでいませんよ?兄は水と間違えて飲んでしまったけれど)


と、母が近づいてきた。神妙な面持ちだったため、良くはわからないが身構えていた。


「昨日から思っていたんだけど・・・」母は少し躊躇っていた。何を言いたがっているのだろうか。


「ここにいた霊なんだけどね、その娘アナタの後ろに纏わりついているの」


・・・・・え?


「まだ住職さんもいるし、今のうちに除霊を受けなさい。なんだか危ない気がするから」


母はとても険しい表情になっていた。


親族の中では私と母だけに霊感がある。祖母の話では祖父も相当な霊感があったそうで、私は特に祖父の雰囲気と似ているそうだ。


だからその少女も私を祖父と見立てているのだろうと思った。


母から告げられた瞬間は驚きを隠せなかったが、そう思うとなんだか少女が可哀想だと考えてしまう。


だから私は言った。


「大丈夫だよ。祖父の代わりなら請け負ってみせるから」


私が気楽に言う姿を見て、母はより一層険しくなった。


母が何に怯え、恐れているのかわからなかった。


だから母が「違うのよ、違う、全然違うのよ・・・」と言うのも気にしなかった。



その日、夢を見た。苦痛の夢、悲劇の夢、残酷な夢、孤独な夢、そして死滅の夢。


産まれて初めて夢にうなされた。あまりにも苦しかった。


その夢から目覚めさせてくれたのは、祖父だった。


祖父が悪夢を払い、何もない白の世界となった。そしてそこに、少女がいた。


少女の顔はあの時見た困惑した表情ではなく、人を殺さんとする悪魔の顔になっていた。


祖父がその少女を身を挺して捕らえ、血肉を食らわれながら共に天へと昇っていった。


そこで現実に戻った。



今思えばあの少女は祖父についていた霊ではなく、あの葬式場で葬儀されたが未練があり成仏できなかった悪霊だったのだろう。


祖父は私のために残った魂で守ってくれたのだ。


私は天に向かって合掌した。ありがとう、と。


しかし右肩は未だに痛む。