発生場所が発生場所だけに、園内には各地から観光客が訪れていたため、またたく間に全米のあちこちではしかの発症が確認され、はしかの予防接種の役割がにわかに注目される事態となっています。
これまでも何度かこのブログでも取り上げましたが、こちらのニュースを見ていて驚くのは、はしかの予防接種に対して拒絶反応を示す親御さんが意外と多いこと。
そうした親御さんたちの声の影響を受けて、有力政治家までもが予防接種が子どもの精神不安を引き起こすなどの問題を指摘し、「予防接種を受けない権利」の意義を強調すれば、そういった言説に科学的根拠が無いことを指摘され、発言を撤回するハメになるなど、大きな騒動となっています。
中でも論争を呼ぶのは
・ 予防接種の義務化
そして、今回のはしか流行の震源地であるカリフォルニア州でも。
・ 個人的な信条を理由に、親が子どもに対する予防接種を拒否することを禁止する法案が審議されています。
【NBC: California Bill May Reshape Vaccination Laws Across the Nation】
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Vaccine laws across the nation may be toughened, observers say, if California passes a fervently debated bill that would strip parents' rights to exempt kids from immunizations based on personal beliefs.
A potential end to California's opt-out provision gained ground Wednesday when the state senate's education committee voted 7-2 to require full vaccinations for almost all public school students.
++++++++++"fervent"は「熱心な、白熱した」という意味の形容詞。"fervently"で「熱心に」という意味の副詞になります。
"opt out"は「意図的に離れる」という意味。「免除してもらう」という意味にもなります。ここでは後者ですね。
今カリフォルニア州で熱心に議論されている法案は、個人的な信条を理由に子どもに予防接種を受けさせない親の権利を取り上げようとするものですが、これが議会を通過すれば、全米の各州でも予防接種にかかわる法律が強化されることになるかもしれないと言われています。
水曜日にカリフォルニア州議会上院の教育委員会がほぼすべての公立学校で予防接種の完全実施を求める法案を7対2の賛成多数で可決したことがきっかけとなり、同州で予防接種の免除を認める条項が削除される可能性が生じています。
こうした動きに対しては、予防接種義務化の賛成者・反対者ともに大きな関心をもって見守っているようです。
予防接種義務化に反対するサンノゼ在住のElaine Shteinさんの声↓
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"If it passes, oh my gosh, all hell is going to break loose. All eyes are on California," said Elaine Shtein, 34, of San Jose. She blames her five-year-old son's autism diagnosis on his vaccinations. She's one of many parents who have criticized the bill. Last week, she brought her daughter, Sophia, 7, to attend a senate hearing.
"If someone knocked on my door and said Sophia needs these vaccinations in order for her to be in third grade, I would say, 'No, not going to happen,'" Shtein, whose daughter attends public school, said in a phone interview with NBC News. "Before I let anyone lay a hand on my daughter, I would home-school her."
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"break loose"は「(束縛されている状態から)飛び出す」という意味。
「予防接種義務化の法律が成立すれば、地獄のようなとんでもないことが飛び出してくるわ。みんながカリフォルニアの動きに注目しているの」
彼女によれば、5歳の息子さんの自閉症(autism)は予防接種を受けたせいらしいのですが・・・
先週彼女は7歳の娘さんを連れて上院の公聴会に出席したそうです。
「もし誰かが我が家のドアをノックして、小学校3年生になるには予防接種を受けないといけませんよなんて言ったら、私は『そんなことはさせない』と答えるわ。予防接種のために他の誰かが娘に触れるぐらいなら、私が家でこの子に勉強を教えます」
水曜日は公聴会は開催されず、法案への投票だけが行われたのですが、それでもサクラメントの州議会前には法案に反対する人々が集まり、デモをしていた模様。
しかし、こうした「子どものことを第一に考える」親御さんは、重要な点を見過している可能性がある、そう指摘するのは生物倫理学者のEric Kodish博士です。
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But bioethicist Kodish contends some parents have forsaken parental responsibilities for the pursuit of parental rights. The California measles outbreak, he argues, showed how public health threats emerge when more parents opt out of vaccinating their kids.
"I would ask these parents to think about the kids with illnesses like leukemia whose immune systems don't work well (against viruses like measles)," Kodish said. "Do parents have any obligations to other children or just to their own biological children? I hope, certainly for our society, that we would be thinking collectively about what's good for (all) children and not just our own individual children."
+++++++++"forsake"は「見捨てる、見放す」とか「断念する、諦める」という意味。
予防接種の義務化に反対する親御さんたちの中には、親の権利を追求するために親の義務を放棄している人々もいる、というのがKodish博士の指摘。
「彼らが白血病(leukemia)のように、はしかのようなウイルスに対して免疫機構が機能しない疾病を抱えた子どもたちのことを考えたことがあるのかと聞きたい。」
「親が子どもに対して負う義務とは、すべての子どもに対して負うものなのか?それとも彼ら自身の生物学的な子どもに対してのみ負うものなのか?社会全体のためには、私たちは各々自身の子どもではなくすべての子どもに対して何が良いことなのかを考えることが望ましい」
このKodish博士の指摘は、経済学で言うところの「外部性(externality)」の問題を端的に表現したものと言えるでしょう。
個々人にとっての便益(または費用)が、社会全体にとっての便益(または費用)と異なる場合に、個々人にとっての最適な選択が社会全体にとって最適ではなくなってしまう、という考え方ですね。
すべて、とは言わないまでも、相当多数の親御さんが、自分の子どもが嫌がるから、自分の子どもの精神状態が不安定になるリスクを避けることができるから、という理由で予防接種の義務化を拒否すればどうなるでしょうか

はしかの発生率は社会全体で見れば上昇を避けられないと思います。その場合に免疫機構に問題を抱えた子どもの生存が危機にさらされてしまいますが、予防接種の義務化を拒絶する親御さんたちは、このような子どもにとっての害悪を考慮に入れずに行動しているのではないか、ということです。
予防接種の免除を禁止する法案は、他にもテキサスやニュージャージーで検討されているようです。
他方、ワシントン、オレゴン、バーモント、ノースカロライナの各州では、予防接種の免除を禁止する法案が既に否決されている模様ですが。
カリフォルニア州は非常に影響力のある大きな州なので、同州の動きが他の州での議論にも変化を及ぼす可能性が高いため、人々の注目を集めているようです。
この法案、次は州議会上院の法務委員会で審議されるそうです。