あれは確か2021年の冬くらいだったと思う。
「東北で4kgを取るための羽根モノを作っている」
それまでも彼が羽根モノで東北全域を回ってデカイバスを釣っているのをずっと見ていた。
「3800までは獲れている、ただ4kgはまだ。でも、このルアーなら絶対4kgを超えると信じている」
東北で4kgというのは釣具屋をやってきたけどもなかなか聞かない数字だった。
彼の作っていたプロトの羽根モノルアーはもう既に歯形が入り、歴戦の戦士の風格すら漂っていた。
ショップを営んでいると、たまにハンドメイドビルダーやルアーを作り始めたというブランドにお声掛けいただくことがある。
それまでもいろんな方に声を掛けて頂いたが、最初は鼻息荒く「めちゃくちゃ釣れる」、「周りには大好評」など言われるが、「何故それを作ったのか?」「どこのフィールドで、どんなシュチュエーションで、どんなサカナを釣りたくて産まれたのか?」などを聞くとしどろもどろになる事が多い。
そしてそんなブランドの多くは数年で消えていった。
話を戻そう。そんな歴戦の戦士のようなプロトルアーを見て、初めて思ったのが「このルアーを世の中に問いてみたい」ということ。
「このルアー、販売して世の中に問いてみたら?自分が使うだけじゃ答えはなかなか出ないかもしれないけど、たくさんの人に使ってもらえたら4kgへの答えが出るじゃないか?」
彼の答えはNOだった。
「自分で4kgを釣るために作っている、他人に売る事なんて考えていない」
あーそうだよなぁ…と思いつつ、瞬間で自分はとことん釣具屋だと思った。
このルアーは間違いなく世界を変える可能性を持つルアーだ、と確信した。
同じ事を思ったのは2度目で、最初は2015年リリースのDRT KLASH9だった。
創業間も無くで、まだビッグベイトカルチャーが東北にはまだ一般的には根付いてなかった時代。
白川さんがこだわって作っていることを耳にしたので、当時資金難ではあったもののワクワクしながら仕入れた思い出がある。
オリジナルカラーのオーダーもあり、「ウチのオリジナルカラーはKLASH9が最初がいい!」と条件面など無理を言ってお願いした。
最初こそなかなか一般的には受け入れられなかったが、その後から今に続くDRT旋風で世界中のアングラーに愛されるキングオブビッグベイトであることは周知の事実だと思う。
「ビルダーは作る喜びと共に、使ってもらって釣ってもらう喜びを共有できる。それだけ自分で自信があるルアーなら売れるかはわからないけど、世の中に問いてみてもいいんじゃないか?ウチで売ってみないか?」
その日、彼は首を縦には振らなかった。
数日経ち、店に来た彼の第一声は「ルアービルダーとして食ってことにしました。だから中途半端にやりたくないから仕事辞めてきました」
お、と思った。2つの意味で。
あのルアーを売るんだな。と同時に、「しまった、コイツならそうなる」と。
本気なヤツだからこそ、勢いがある。
中途半端になってやらない、そりゃ仕事なんて辞めて本気で向き合うに決まってる。
とは言え、ルアービルダーになったからすぐ収入があるわけじゃない。聞こえはイイかもしれないがただの無職だ。
焚き付けたの自分だ、でもあのルアーなら世界を変えるかもしれない。
そこで彼と約束したのは、
1)4月から毎月必ずルアーを作ること
2)そのルアーを売るイベントを毎月ウチで行うこと
3)仕入れルアーはイベントで売れても売れなくてすべてウチで買い取ること、だった。
その後、製品版の原型となるモックができ、「名前をどうしようか?」なんて話をして。
CRAWLER BOYZは白川さんからもらった名前だし、初めての製品には頭文字を入れたほうがいい…
そして生まれのが”CBZ”
今思い返すとすべてが Sure shotだった気がする。
初めて製品として世の中に問いたのが2022年4月。初めてのイベントは彼の周りの全ての人間が温かく彼の門出に花を添えた日だった。
釣具屋をやってきていつも思うのは、良い製品には常にそんな「確信の一撃」となるストーリーの溢れている。
あれから2年、CRAWLER BOYZのSure shotは続く。