
ジプシー。
ルーマニアに住んでいる間にルーマニア人たちが外国人である私の前で、その名前を口にするのを憚り、あるいは露骨に悪感情を表す場面にも何度も出会った。政治的にはロマと呼ぶのが正しいそうだが、そう呼ぶルーマニア人には会ったことがない。
「ジプシー・キャラバン」はそんなルーマニア、マケドニア、インド、スペインの「ジプシー」の民族音楽の北米コンサートツアーを縦軸に、民族の不遇の歴史とそれでも音楽を力に悲しみも喜びも抱えて生きる音楽家たちの人生が描かれたドキュメンタリー映画だ。
正直なところ私はこの映画を観て素直に「差別はダメだ」とは言えないし、登場人物が言っていた「みんなロマを見習うべきだ。奴隷をもたないし戦争もしない追い出しもしない」という言葉に心の底から共感できるわけでもない。
私には靴を履いていない女の子の手を引いた貧しげなロマに追いかけられて唾を吐かれた思い出がある。その時は日本を離れる前に読んだルーマニア人にロマというだけで殴られ傷だらけだという子供の出てくるドキュメンタリーを読んだことを思い出して、そんな目に遭ってきている人がよりマイノリティに出会った時に攻撃的になるのは理解できる流れであると自分に言い聞かせたのだが、ショックではあった。
こんなことを繰り返して、ロマへの偏見や悪感情はどんどん蓄積されていく。でもそんな時に、どうして彼らがそういう行動に出ているのかという理由がわかれば少しは溝が埋まるだろうか。
そう思ってルーマニアの友人たちに、「ジプシー・キャラバン」を観るように勧めてみた。あの国でジプシー映画を放映するかどうかもわからないが、映画の中で必死に生きている登場人物たちの言葉と「祖国も権力も持たない彼らが、生きる為に与えられた」音楽を聞いたら、このコンサートを見に来た人たちのように少しは何かが変わるだろうか。そんな文化の力を信じてみたい、そう思う映画だった。

映画の公式サイト:http://www.uplink.co.jp/gypsycaravan/
写真は私がルーマニアで撮影したものです。