沖縄の北大東島。この島には唯一の女性医師が常勤していた。だがこの医師が島で車を運転中酒気帯び運転の男が車線を飛び出し正面衝突する事件が起きた。悲劇はその男が素直に罪を認めず示談を強要し医師を脅迫、恐怖を感じた医師は翌日離島し無医村となった。以来誰も島に赴任する医師はいなくなった。己が助かりたい一心で女性医師を脅迫した男の卑劣な行動。北大東島島民の失ったものは医師だけではない。「ルール違反を暴力で誤魔化そうとする卑劣な人間のいる島」という不名誉を得てしまったことだ。南の小さな島で起きた一人の愚か者の起こした事件によって失われたものはあまりにも大きすぎた。もし酒気帯び運転の男が事件直後に速やかに己の非を認め医師の安否を気遣い精一杯の正義の行動を行った上で、警察に自首して罪を償っていたとしたら、全く別の展開になっていたのではあるまいか。離島で唯一の医師として赴任するくらいの優しい医師である。きっと島に留まっただろう。それを思うと…。「通報したらどうなるか分かっているだろうな」こんな一言を加害者から言われ安心して仕事ができる人がいるだろうか。北大東島の酒気帯び運転の男は村で唯一の医師に向かってこう言い放ったそうだ。動かし難いのは北大東島の住民の中にその男がいた事実。この男は医師だけでなく村人の安心を奪った。人の心は傷つきやすいもの。ただでさえ酒気帯び運転の男に正面衝突され医師は負傷していたかもしれないし、車も壊れただろう。それだけでも大変な苦痛だ。それに加えて「通報したらどうなるか分かってるだろうな」などと言われたらPTSDにならない方がおかしい。心の傷は肉体の傷より大きいのだ。事件後の村の対応も変だ。何より被害者である医師のことを第一に考え対応すべきところ「勤務時間外の事故だった」などと軽く扱い、医師が島を離れるとすぐ代わりの医師の派遣を県に要請したという。離島した医師の心のケアは?壊れた車は?損害賠償は?呆れるほどこの医師への対応が冷た過ぎると思う。未だに北大東島には後任の常勤医が派遣されていないという。前任者が酷い扱いをされて快く赴任を承諾する医師がいるとは思えない。ただでさえ深刻な地方の医師不足の実態を思うと北大東島は本当に医師を必要としているのか疑問が沸く。被害者である医師に三顧の礼を尽くし戻ってもらうのが筋なのでは?