非常口のドアを開けて頭を突き出すと、誰かが目の前をすっと通り過ぎた。
反射的に頭をさっと引っ込めた。
危うくぶつかるところだった。
「母さん」そう呼ぶ声に僕はもう一度、顔を突き出した。アタフタと階段を降りて行くのはホソク兄さんだった。
階段の下の方には1人の女性が立っていた。どうしたのだろう。
僕は踊り場に踏み込んだ。
兄さんの足がもつれたのは、次の瞬間だった。反射的に駆け寄って手を伸ばし、兄さんの腕をつかんだ。
かけ降りていた速力にブレーキがかかったことで兄さんの体がふらつき、僕もバランスを失うところだった。
省略…
急に立ち止まった兄さんが僕を見て言った。『ジミン。ここから出よう』
僕は何も答えられなかった。
兄さんは頼み込むように言った。
「また迎えにくるよ」
僕は言った。
「何日か後には精神科病棟に戻るんです」