ナルコプレシーは場所を選らばなかった。

仕事をしている間に倒れたり、道を歩いてる途中、一瞬にして気を失ったりすることもあった。心配してくれる人の前では平気なふりをした。数字を10まで数えられないという事実は誰にも打ち明けられなかった。


そんな風に倒れた日は母の夢を見た。

いつも同じような内容だったが、母とバスに乗ってどこかに行く夢だった。

夢の中で僕はとても浮かれていた。

車窓を通り過ぎる看板を読んだり、母の横顔を見たりして、座席でじっとしていられなかった。

その時の僕は7歳くらいだった。


ある瞬間、僕はふと気づいた。あぁ、母さんはいないんだ。そして我に返ると、僕は20歳だった。


省略…


母のシルエットが日差しの中で

白く霞んで揺らめき、髪は風になびいていた。悲しいのは、それを見た瞬間、こんな考えが浮かんだことだ。母が完全に僕の方を振り向いたら僕は夢から覚めるだろう。

僕は母に振り向かないように言おうとするが、声を伴った言葉が出てこなかった。

それでも僕は叫び続けた。

『母さん、振り向かないで。

振り向かないで』


でも母はいつも顔を僕の方に向け、結局、振り向いた。


省略…


今日も同じだった。目を開けた時、真っ先に見えたのは病院の天井の蛍光灯だった。


医者は、軽い脳震盪のようだが、もう少しチェックしてみようと言った。

病室は6人部屋だった。疲れていた。

ナルコプレシーから覚めると、なぜかぐったり疲れていた。