カランコロン♪


「殺してやる!」

そう言いながら男は鞘から刀を抜いた。「模造刀だよね、真剣が家にあるわけないもんね」と僕は思った。今思えば模造刀であっても家にあるのはおかしいのである。
「あんた何してるん‼」と止めに入った母親にびんたをする男。
「もうやめて!」と縋りついた妻を蹴り上げる男。
男女平等とはこういうことだ、と言わんばかりの傍若無人っぷりである。

「もう警察呼ぼ!」母親が叫んだ。「おう、呼べや!こいつ殺して刑務所入るんやったら本望じゃ‼」国家権力さえこの男をビビらせることは出来なかった。たかがポテト一つが遅れただけで人を殺す。人の価値観ってのは本当に千差万別。人って不思議だね。

ちなみにエリアマネージャーはただただ立ち尽くしていた。僕は男の殺意が自分に向かないように空気と同化していた。「僕はここにはいませんよ」と。
「黒子のバスケ」の主人公、黒子テツヤにも負けないほどの影の薄さを発揮していた。

そして男が刀を振り上げ、エリアマネージャーに近づいた時、母親が言った。
「もうあかん、お父さん呼ぼ。電話して!」と。

すると男は振り上げた刀を下ろし、少し冷静さを取り戻しエリアマネージャーに詰め寄った。
「いい加減な商売してんなよ!商品用意し忘れるとかありえへんぞ!」
「まことに申し訳ございません。今後二度とないように気を付けます」
「お前らのとこでは二度と頼まん。商品置いて帰れ。」

そう言って男は部屋に戻って行った。エリアマネージャーは残された妻にお代金は結構ですので、と伝えてポテトを渡した。結局ピザの代金もなしにすることになったようだ。
そして僕たちはそれぞれのバイクで店まで帰ることになった。クレーム対応に自信のあったエリアマネージャーは何もできずにあわあわしていたところを僕に見られたことが少し恥ずかしそうだった。一言だけ「ありゃとんでもねぇな」とだけ呟いてバイクのエンジンをかけたのであった。

僕がここに到着してからもう一時間が経過していた。やっと解放されてほっとしながらバイクに乗り込んだ。やっぱり山科やべぇ地域だな、新店長、がんばれよ。と心の中で呟きながら、警察にも怯まなかったあの男をびびらせる「お父さん」は一体どんな怖い男なんだろう、と思ったのであった。

~完~


カランコロン♪