午前1時を過ぎた頃だったかいつもの様にカウンター席に座る男性、藤原さんだ。
何故かボトルを2本もキープしていた。ヘネシーVSOPとタンカレージンだ。
彼は某有名ホテルのバーテンダーなのだそうだ。
早い時間に仕事が終わると飲みにやってくるが、飲むペースも速く、すぐに酔ってしまう。
ホテルマンと言うのは特にストレスが溜まるのか?
私は経験が無いので判らないが、彼は常に何かのイライラを紛らわすために酒に酔う。
酔うと目が据わってきて、ろれつも回らなくなり、暴言を吐き、最後は寝てしまう。
実の所、さっさと寝てくれた方がこちらとしてはかなり楽なのだが、なかなかうまく行かない。
この夜もいつものようにボトルを並べて飲み始めた。
「お腹空いたので何か食べたい」と言い出したので、メニューを渡した。
ロールキャベツを注文いただき、待っている間も飲み続ける。
この日は特にピッチが速かった。
店も忙しく、私もほとんどお相手が出来ていなかったのだが、、、
他の常連客から「あの人大丈夫???」と言われたので、彼を見るとロールキャベツの器の中に顔を突っ込んだまま寝ていた。。。。
「藤原さん、大丈夫???」
一生懸命起こすがなかなか起きない。
何度かゆすってようやく顔を上げた、、、、が、、、ロールキャベツの中に顔を突っ込んでいてよく呼吸が出来たなと感心する(笑)。
朦朧とした意識のまま「帰る」と席を立つ。
一応おしぼりで顔を拭かせたが、、、ホントに帰れるのかが心配になる。
お会計の時も財布から1万円札を数枚取り出してはレジの前でばらまく。。。
ホントに性質が悪い、私と同じ歳なのにずいぶんと違うものだと思った。
週に1~2回は来店し、たいていこんな感じだった。
何度か彼の職場に飲みに行ったこともあるが、仕事中は真面目で格好良く、センスも悪くなかったのだが。。。それを維持し続けるためには大きなストレスを抱えなければならなかったようだ。
いつしか彼はホテルを辞めた。
酒の席で上司と大喧嘩して辞めざるを得なくなったそうだ。
一時はなかなか素敵な女性とも付き合っていたのだが、彼女も彼の酒乱振りに我慢が出来なくなって去って行った。
彼は職場を次々と変えていき、遂には行方不明になった。
20年も前の話だが、最後に会ったのは15年位前だっただろうか、何年か振りで突然私の新しい職場に訪ねてきた。
酒が原因で失敗の連続だったことを告白し、この日は適度に飲んで楽しんで行ってくれた。
「また来ますね」と言い残して帰ったが、その後は二度と姿を見せることは無かった。
極最近、彼を知る友人から「だいぶ前に実家に帰ったらしいよ」と聞かされたが、懐かしい思いと残念な思いが交錯した。
元気でやっていることを願っている。
