エディタ・グルベローヴァ
Edita Gruberová
1946~2021。スロヴァキアのプラティスラヴァに生まれる。1968年、プラティスラヴァの歌劇場で『セビリアの理髪師』のロジーナを歌ってデビュー。同年、ウィーン国立歌劇場のオーディションを受けて合格、70年、『魔笛』の夜の女王でウィーン・デビュー。74年、ザルツブルク音楽祭にカラヤンの指揮で夜の女王を歌う。76年、ウィーン国立歌劇場でベームの指揮で『ナクソス島のアリアドネ』のツェルビネッタを歌い、これがセンセーショナルな成功を収めて一気に名声を広めた。
極めてリリックな美しい高域を持つのが特徴。コロラトゥーラとして知られているが、コロラトゥーラに必要な高域のパワーがない。しかし、その可憐な美声の魅力は捨てがたいものがあり、とくに共演者に恵まれたときのモーツァルトのオペラは絶品である。
まずは次の2枚。
(1)モーツァルト『ルーチョ・シッラ』 アーノンクール指揮 コンツェントゥス・ムジクス・ウィーン テルデック1989
エディタ・グルベローヴァ(ジュニア)、ペーター・シュライアー(ルーチョ・シッラ)、チェチーリア・バルトリ(チェチリオ)、ダウン・アップショー(チェリア)、イヴォンヌ・ケニー(チンナ)
(2)モーツァルト『偽の女庭師』 アーノンクール指揮 コンツェントゥス・ムジクス・ウィーン ワーナー1991
エディタ・グルベローヴァ(オネスティ)、トマス・モーザー(ドン・アキーゼ)、ウィー・ヘイルマン(ベルフィオーレ伯爵)、シャーロッテ・マルギオーノ(アルミンダ)
この2枚は両方ともモーツァルトが十代の頃に作曲したオペラ・セリア。ヨーロッパが市民社会になる以前、十八世紀の貴族の典雅な気分が味わえるオペラだが、その雰囲気をアーノンクール指揮による端正な演奏と優れた録音で実現している。歌手は美声を揃えていて申し分ない。とくにグルベローヴァはこういうオペラ・セリアがじつによく似合う。これは構えて聴くより、日曜日の朝寝坊した朝食と共にリラックスして聴くような感じがいい。最高の贅沢である。
(3)ヴェルディ『リゴレット』 シノーポリ指揮 聖チェチーリア音楽院管弦楽団 フィリップス1984
エディタ・グルベローヴァ(ジルダ)、レナート・ブルゾン(リゴレット)、ニール・シコフ(マントヴァ侯爵)、ロバート・ロイド(スパラフチーレ)、ブリギッテ・ファスペンダー(マッダレーナ)
(4)ドニゼッティ『ランメルモーアのルチア』 ボニング指揮 ロンドン交響楽団 テルデック1991
エディタ・グルベローヴァ(ルチア)、ニール・シコフ(エドガルド)、アレクサンドル・アガチェ(エンリーコ)
この二つのオペラはじつにドラマチックな結末で知られているが、グルベローヴァの出演しているこの演奏はドラマ性よりも音楽性重視である。演技力や微妙な心理描写よりも音楽的な美しさで勝負している。なので、ドラマとして聴くならやや物足りないが、これはこれで十分な説得力がある。きれいな演奏として楽しめる。
(5)モーツァルト『魔笛』 アーノンクール指揮 チューリッヒ歌劇場 テルデック1988
エディタ・グルベローヴァ(夜の女王)、ブロホヴィッツ(タミーノ)、バーバラ・ボニー(パミーナ)、アントン・シャリンガー(パパゲーノ)、マッティ・サルミネン(ザラストロ)
(6)モーツァルト『後宮からの逃走』 ショルティ指揮 ウィーン・フィル デッカ1985
エディタ・グルベローヴァ(コンスタンツェ)、キャスリーン・バトル(ブロンデ)、エスタ・ヴィンベルイ(ベルモンテ)、ハインツ・ツェドニク(ペドリロ)、マッティ・タルヴェラ(オスミン)
この二つはグルベローヴァに限って言えば、高域にパワーあるいはテンションが足りない。コロラトゥーラはパワーとテンションがいる。でないと華やかさが出ない。夜の女王はグルベローヴァの十八番となっているらしいが、理解に苦しむ。ドイテコムの方が断然上である。コンスタンツェもローテンベルガーあたりと比べると高域のパワーに断然差がある。
(7)R.シュトラウス『ナクソス島のアリアドネ』 ベーム指揮 ウィーン国立歌劇場 オルフェオ1976
エディタ・グルベローヴァ(ツェルビネッタ)、グンドゥラ・ヤノヴィッツ(アリアドネナ)、ジェイムズ・キング(バッカス)、アグネス・バルツァ(作曲家)
歌手陣は素晴らしいし、録音も非常にいい。しかし、このオペラはセッション録音のものがいい。しかし、これだけのメンバーが揃えばとにかく聴いておきたいものだ。
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