レナート・ブルゾン
Renato Bruson

1934年~。イタリアのパドヴァに生まれ、パドヴァ音楽院で声楽を学んだ。1961年、スポレート歌劇場のコンクールで優勝、その結果、『トロヴァトーレ』のルーナ伯爵の役を得てデビュー。しかしこのときはさしたる印象を残さなかったらしく、一流歌劇場からのオファーはなかった。しばらくイタリアの地方歌劇場を回っていたが、1967年、パルマ王立歌劇場で『運命の力』のドン・カルロを歌っていたのがメトの関係者の目にとまり、メトのオーデションを受けることになった。すぐに出演契約が決まり、1969年、『ルチア』のエンリーコ役でメトデビューを飾った。これが転機となって、徐々に世界中に活躍の場を広げ、1972年にスカラ座デビュー、1975年にはコヴェント・ガーデンにデビュー、1977年にはウィーン国立歌劇場デビュー。カップチルリの後継者と見なされるまでになる。

美しく柔らかく上品な声をもつバリトン・カンタンテ。演技はうまいが、決して熱くならず、適度にコントロールされた表現なので、素人聴きにはやや物足りないと感じるときがある。息が長くレガートが完璧で、作曲者の意図に絶対に忠実なので、手がかからず指揮者から好まれるという。ムーティの指揮で『椿姫』のジェルモンを演じたときは「テンポをまもってさえくれればいい」としか言われなかったという。


(1)ヴェルディ『仮面舞踏会』 アバド指揮 ミラノ・スカラ座管弦楽団 グラモフォン1980
レナート・ブルゾン(レナート)、プラシド・ドミンゴ(リッカルド)、カーティア・リッチャレリ(アメリア)、エレーナ・オブラスツォワ(ウルリーカ)、エディタ・グルベローヴァ(オスカル)
完璧といえる歌手陣だが、それだけなく演奏全体が非常に洗練されており、非常に高いレベルでまとまっている。歌手がいい、指揮がいい、オケは超一流、録音もいい。文句なくこのオペラの決定盤に推せるが、ブルゾンの表現がやや大人しい。復讐に燃える役なのだからもっと熱くなって欲しいと感じるのは贅沢だろうか。

(2)ヴェルディ『運命の力』 シノーポリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 グラモフォン1985
レナート・ブルゾン(ドン・カルロ)、ホセ・カレーラス(ドン・アルヴァーロ)、ロザリンド・プロウライト(レオノーラ)、アグネス・バルツァ(プレツィオシッラ)、ジョン・トムリンソン(カラトラーヴァ侯爵)
これまた欠点のない、全体的に非常に洗練された演奏である。歌手はぴたりとはまっていて録音もいい。このオペラの決定盤として自信をもってオススメできる。欲をいえばブルゾンが復讐する役としてはやや大人しいが、ブルゾンにそれを言っても仕方ないか。

(3)ヴェルディ『リゴレット』 シノーポリ指揮 聖チェチーリア音楽院管弦楽団 フィリップス1984
レナート・ブルゾン(リゴレット)、エディタ・グルベローヴァ(ジルダ)、ニール・シコフ(マントヴァ侯爵)、ロバート・ロイド(スパラフチーレ)、ブリギッテ・ファスペンダー(マッダレーナ)
ブルゾンのリゴレットとグルベローヴァのジルダの組み合わせが非常によい。高い次元でドラマ性と音楽性のバランスが実現されている。演技はうまいが、演技にのめりこむあまりに「歌う」ことを忘れてはいない。十分に歌ってしかも演技もうまいのである。しかし、これはオペラに何を求めるかによるけれども、毒がない。ニール・シコフはマントヴァのワルの部分を表現しきれていないと思う。

(4)ヴェルディ『マクベス』 シノーポリ指揮 ドイツオペラベルリン フィリップス1983
レナート・ブルゾン(マクベス)、マーラ・ザンピエリ(マクベス夫人)、ロバート・ロイド(バンクォー)、ニール・シコフ(マクダフ)
これもドラマ性と音楽性がバランスされた演奏である。ザンピエリはうまいがマクベス夫人の悪魔的な毒々しさはない。全体としてアバド盤のような強烈な迫力には欠けるが、それが欠点であるというのは酷であろう。それぞれの歌は歌として十分に楽しめる

(5)ヴェルディ『椿姫』 ムーティ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 EMI 1980
レナート・ブルゾン(ジェルモン)、レナータ・スコット(ヴィオレッタ)、アルフレード・クラウス(アルフレード)
これはレナータ・スコットが少し目立ちすぎると感じる。ブルゾンのジェルモンはぴったりの役だと思うし、アルフレード・クラウスのアルフレードも悪くないとは思うが、全体のバランスは悪いと感じる。録音もあまりよくない。個々の歌手の出来はいいと思うもののオペラ全体の出来とは別問題なのだ。

 

 

 

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