ジュゼッペ・タッディ
Giuseppe Taddei

1916~2010。イタリアのジェノヴァに生まれる。18歳のときローマ歌劇場主催の声楽コンクールで優勝し、セラフィンに認められ、ローマ歌劇場の養成所に入る。1936年、ローマ歌劇場にてセラフィンの指揮する『ローエングリン』(タイトルロールはジーリ)の軍令使役でデビュー。戦後、1945年にザルツブルクのコンサートに出演。1946年にはウィーン国立歌劇場に『リゴレット』でデビュー。1948年、スカラ座に『アンドレア・シェニエ』でデビュー。以後、世界中の歌劇場で活躍した。

とりわけ美声というわけでも声量があるというわけでもなく、声そのものにはこれといった特徴がなく、もっぱら演技力で勝負するタイプ。技術と演技力だけで絶大な名声を得たというのがすごい。性格俳優なのでブッファ役や悪役での評価が高いが、非常に多彩な役をこなし、スカルピア、トニオ、フィガロ、ファルスタッフ、ドゥルカマーラの他にマクベス、リゴレット、アモナズロなども歌う。芸には厳しい歌手として知られていた。メジャーレーベルでの録音が少ないので、生前のヨーロッパでの名声のわりには日本での知名度は低いようだ。


(1)プッチーニ『トスカ』 カラヤン指揮 ウィーン・フィル デッカ 1962
タッディ(スカルピア)、レオンタイン・プライス(トスカ)、ディ・ステファノ(カヴァラドッシ)
タッディのいかにも憎たらしい悪役ぶりが見事。レオンタイン・プライスの白熱した歌いっぷりもよい。このオペラのほぼ決定盤といえるが、このオペラには同じカラヤンの指揮したリッチャレリ=ライモンディ盤があって、これが強力である。甲乙つけがたいが、録音も含めて総合的にみて後者か。

(2)モーツァルト『フィガロの結婚』 ジュリーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 EMI 1959
タッディ(フィガロ)、アンナ・モッフォ(スザンナ)、エバーハルト・ヴェヒター(伯爵)、エリザベート・シュワルツコップ(伯爵夫人)、フィオレンツァ・コッソット(ケルビーノ)、イヴォ・ヴィンコ(バルトロ) 
まずは申し分のない歌手陣である。どうしてもベーム盤と比べてしまうが、隅々まで緻密に練り上げたようなベームに比べると、いくぶん緩い感じだがそれが欠点だというわけではない。タッディのフィガロは上手いとは思うが、プライのイメージが強すぎて、それに比べるとなんだか物足りない。

(3)ドニゼッティ『愛の妙薬』 セラフィン指揮 ミラノ・スカラ座 EMI 1958
タッディ(ドゥルマカーラ)、ルイジ・アルヴァ(ネモリーノ)、ロザンナ・カルテリ(アディーナ)
タッディとルイジ・アルヴァの組合せは悪いわけないのだが、これまた強力なライバル盤がある。エンツォ・ダーラとパヴァロッティの盤である。さすがにこれに比べると色あせるようだ。

(4)ヴェルディ『マクベス』 シッパース指揮 聖チュチーリア音楽院 デッカ 1964 
タッディ(マクベス)、ニルソン(マクベス夫人)
アバド盤に比べるとかなり見劣りがする。まずオケだが、ミラノ・スカラ座に比べると迫力がまったくない。ニルソンはただ一方的にキンキン歌うだけで全然演技していない。ニルソンのマクベス夫人は失敗である。タッディの演技は素晴らしいがそれが活かされていない。

(5)ヴェルディ『ファルスタッフ』 カラヤン指揮 ウィーンフィル フィリップス 1982 
タッディ(ファルスタッフ)、ローランド・パネライ(フォード)、カバイヴァンスカ(アリーチェ・フォード)、クリスタ・ルートヴィヒ(クイックリー夫人)
タッディの出演したオペラ録音といえば、いの一番にこれなのだが、あたくしにはこのオペラがさっぱりわからない。せめてセリフが原語で理解できれば面白いのかもしれないが。



・・・こうしてみると、なんだかイチオシといえるものは少ないなあ。基本的に地味でいぶし銀的な歌手なので、CDが売れて大人気になるというタイプではない。やはり劇場での生演奏で人気を得た人なんだろうと思う。

 

 

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