ニコライ・ゲッダ
Nicolai Gedda

1925~2017。スウェーデンのストックホルムに生まれる。母はスウェーデン人、父はドン・コサック合唱団でバスを歌っていたロシア人。はじめスカンジナビア銀行に勤めるサラリーマンだったが、得意先に声の良さを認められ、その援助によって名テノール、メルティン・エーマンに師事し、ストックホルム王立音楽院に2年間学んだ。1952年アダンの『ロンジュモーの郵便馭者』のシャブルー役でデビュー。EMIの名プロデューサー、ウォルター・レッグとカラヤンはすぐさまゲッダの傑出した才能を認め、翌年の53年にはカラヤンの指揮によるバッハ・ロ短調ミサ曲、ストラヴィンスキー・『エディプス王』に起用された。さらにシュワルツコップと共演してオルフの『アフロディテの勝利』の初演を歌った。ミラノ・スカラ座には『ドン・ジョヴァンニ』のオッタヴィオでデビュー、54年にはコヴェント・ガーデンとパリ・オペラ座にデビュー、57年にはメトロポリタン歌劇場にデビュー。

有名なリリック・テノールだが、日本ではドラマチック・テノールに比べると人気の点でははるかに落ちるようである。『ドン・ジョヴァンニ』のオッタヴィオとか『魔笛』のタミーノとかに起用されるが、その役柄からして熱狂的な人気というのは得られそうにない。おそらくその甘く気品のある美声は劇場では観客をうっとりさせたと思われるものの、録音ではいまいちその良さがわかりにくいのではないかと思われる。

欧米での人気は絶大で録音の数はドミンゴに迫ると言われる。しかし、現在それらの録音の大部分は手に入れるのが難しいようである。


(1)モーツァルト『イドメネオ』 シュミット=イッセルシュテット指揮 シュターツカペレ・ドレスデン EMI 1971
ニコライ・ゲッダ(イドメネオ)、アドルフ・ダラポッツァ(イダマンテ)、アンネリーゼ・ローテンベルガー(イリア)、エッダ・モーザー(エレットラ)、ペーター・シュライアー(アルバーチェ)、エーバーハルト・ビュヒナー(大司祭)、テオ・アダム(神託の声)
フルトヴェングラーの頃まではベートーベンこそが深い解釈が必要な音楽なのであり、それと比較してモーツァルトは軽い音楽と見なされていた。モーツァルトの真価を世に知らしめたのはブルーノ・ワルターであり、それを引き継いだのがカール・ベームである。しかし、それでもモーツァルトのオペラ・セリアの価値が認められるようになったのは1970年代を過ぎてのことである。このイッセルシュテットによる録音はそのはしりだろう。全体に端正で気品のある出来映えで。歌手陣も充実している。ゲッダはこういうオペラ・セリアでこそ真価が発揮されるようだ。もっといろいろ聴きたいもんだが、現在、ゲッダの出てているオペラ・セリアというのは、これくらいしか見つからない。入手は難しいものと思われる。

(2)J.シュトラウス『ウィーン気質』 ボスコフスキー指揮 フィルハーモニア・フンガリカ EMI 1976
ニコライ・ゲッダ(ツェドラウ伯爵)、クラウス・ヒルテ(ギンテルバッハ侯爵)、アンネリーゼ・ローテンベルガー(ガブリエーレ)、レナーテ・ホルム(フランツィスカ・カリアリ)
シュトラウスのオペレッタはゲッダの得意とするところ。ゲッダを知りたいなら聴いておきたい盤である。シュトラウスのワルツが満載でなかなか楽しいものになっている。録音の音質がいまいちなのが惜しい。

(3)モーツァルト『魔笛』 クレンペラー指揮 フィルハーモニア管弦楽団 EMI 1964
ニコライ・ゲッダ(タミーノ)、ヤノヴィッツ(パミーナ)、ワルター・ベリー(パパゲーノ)、ルチア・ポップ(夜の女王)、ゴットロープ・フリック(ザラストロ)、シュワルツコップ、ルートヴィヒ、ヘフゲン(三人の侍女)
ご覧の通り、超贅沢な歌手陣である。ただ、この盤にはセリフがなく、オペラというよりは、名歌手を集めたガラ・コンサートといった感じ。『魔笛』の代表盤として挙げることはできないが、聴かずにやり過ごすこともできない。

(4)モーツァルト『後宮からの逃走』 クリップス指揮 ウィーンフィル EMI 1966
ニコライ・ゲッダ(ベルモンテ)、ルチア・ポップ(ブロンデ)、ローテンベルガー(コンスタンツェ)、ゴットロープ・フリック(オスミン)、ゲルハルト・ウンガー(ペドリロ)
これは何度も挙げました。歌手陣、配役、音質、あらゆる面からみてオペラCDの傑作。

(5)モーツァルト『ドン・ジョヴァンニ』 クレンペラー指揮 ニューフィルハーモニア管弦楽団 EMI 1966
ニコライ・ゲッダ(ドン・オッターヴィオ)、ギャウロフ(ドン・ジョヴァンニ)、フランツ・クラス(騎士長)、クレア・ワトソン(ドンナ・アンナ)、クリスタ・ルートヴィヒ(ドンナ・エルヴィーラ)、ワルター・ベリー(レポレロ)、ミルレラ・フレーニ(ツェルニーナ)、パオロ・モンタルソロ(マゼット)
これまたEMIの総力を結集し、スター級をずらりと揃えたような盤。しかしそのわりに評論家の評価はあまり高くないようだ。難しいオペラなので仕方ないが、これで不満なら他に何があるのかと言いたくなる。

(6)ビセー『カルメン』 プレートル指揮 パリ・オペラ座管弦楽団 EMI 1964
ニコライ・ゲッダ(ドン・ホセ)、マリア・カラス(カルメン)、ロベール・マサール(エスカミーリョ)、アンドレア・ギオー(ミカエラ)
ゲッダはスウェーデン出身だが六か国語を流暢に操り、とくにフランス語は見事だったという。この盤はマリア・カラスの演技の凄まじさばかりが注目されているが、ゲッダもなかなか頑張っているのである。



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