フィオレンツァ・コッソット
Fiorenza Cossotto

1935~。イタリア、ヴェルチェッリに生まれ、トリノ音楽院で音楽教育を受ける。ヴィオッティ国際コンクールをはじめ、多くのコンクールに入賞した後、1956年、スカラ座の研修所に入って、最初の数年間はスカラ座で端役をつとめた。しかし、この時期にすでに才能は認められていて、多くのレコーディングに参加した。1960年、ヴェローナ・アレーナ音楽祭で『アイーダ』のアムネリスを歌って一躍名声を得た。この時期、イタリアの名メゾ・ソプラノ、シミオナートの引退と重なったため、その跡を継ぐメゾとして期待され、とんとん拍子に出世した。メトロポリタン、コヴェント・ガーデン、ウィーン国立歌劇場と、次から次へと制覇していった。

芯に鋼のような強靭さを感じさせるパワーがあり、しかも艶やかさのある美しい声である。個人的には大変好みである。しかし、あくまでメゾ・ソプラノであるため、タイトルロールを歌うことが少ないのが残念。

コッソットの出演しているCDは本人も含めて歌手陣が充実しており、どれも傑作である。


(1)ヴェルディ『トロヴァトーレ』 セラフィン指揮 ミラノ・スカラ座管弦楽団 グラモフォン 1962
コッソット(アズチェーナ)、ベルゴンツィ(マンリーコ)、ステッラ(レオノーラ)、バスティアニーニ(ルーナ伯爵)、ヴィンコ(フェルランド)
コッソットのアズチェーナは当たり役として名高い。アズチェーナを歌うにしては声の質が明るすぎるとは思うが、パワーのあるじつに見事な美声である。一世一代の名歌唱といっていいだろう。これは絶対に聴いておきたい。ヒロインを歌うステッラも悪くないのだが、完全にかすんでしまっている。これではどっちがヒロインだかわからない。なお、ルーナ伯爵の家臣フェルランドを歌っているイーヴォ・ヴィンコはいい声をしたバスだが、コッソットの夫である。リハーサルがはかどらずにイライラしているコッソットのところに出番のなくてぶらぶらしていたヴィンコがやってきて、「近くのスーパーで台所洗剤がすごく安かったよ。ほら。」と買い物袋を差し出し、コッソットをさらに激怒させたという。どうでもいい話ではあるが。

(2)ヴェルディ『アイーダ』 ムーティ指揮 ニューフィルハーモニア管弦楽団 EMI 1974
コッソット(アムネリス)、カバリエ(アイーダ)、ドミンゴ(ラダメス)、ギャウロフ(ランフィス)、カップチルリ(アモナスロ)
ご覧の通り、申し分のないキャストである。コッソットとカバリエはどちらも豪傑なので、この二人の対決はかなり聴きごたえがある。録音もよい。『アイーダ』のほぼ決定盤。

(3)ベルリーニ『ノルマ』 ヴァルヴィーゾ指揮 聖チェチーリア音楽院管弦楽団 デッカ 1967 
コッソット(アダルジーザ)、エレナ・スリオティス(ノルマ)、マリオ・デル・モナコ(ポリオーネ)
コッソットとスリオティスというのは、これまたすごい組合わせである。これにデル・モナコが加わるのである。このうち、だれかひとりが出てもそのパワーに圧倒されるのだが、このスーパーパワーが三人もそろっているという、まさに絶句するしかない超豪華盤。

(4)ドニゼッティ『ラ・ファボリート』 ボニング指揮 ボローニャ市立歌劇場 デッカ 1974
コッソット(レオノーラ)、パヴァロッティ(フェルナンド)、ギャウロフ(バルダッサーレ)、コトルバス(イネズ)
コッソット、パヴァロッティ、ギャウロフ。なんとも楽しい歌の競演である。とくにパヴァロッティは絶好調。ドニゼッティのオペラの中でもマイナーな方に属するらしく、対訳が手に入らなかったが、そんなものなくても理屈抜きに「歌」を楽しめる。

(5)ヴェルディ『一日だけの王』 ガルデッリ指揮 ロイヤルフィルハーモニック管弦 フィリップス 1973
コッソット(ポッジョ伯爵夫人)、ジェシー・ノーマン(ジュリエッタ)、ホセ・カレーラス(ベルフィオーレ)
このオペラはヴェルディの第2作目。ごく初期のオペラだが、軽快な、なかなか楽しいヴェルディ節が聴ける。コッソットの声の質からいって、こういう明るいオペラが合っている。かなりの技巧を要するが、それもなんなくこなしている。

(6)ヴェルディ『マクベス』 ムーティ指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団 EMI 1976
コッソット(マクベス夫人)、ミルンズ(マクベス)、ライモンディ(バンクォー)、カレーラス(マクダフ)
コッソットのマクベス夫人は、歌唱としてはじつに見事だが、コッソットは元来、こういうくら~い役は似合わない。ミルンズのマクベスは演技過剰というか、いつも怯えすぎていて、なんだか情けない。悪役は悪役で、もう少しドスの利いた迫力が欲しい。



コッソットを聴くだけなら、どれ聴いてもよい。どれもコッソットの声には満足できる。

 

 

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