レナータ・テバルディ
Renata Tebaldi

1922~2004。イタリアのペザロに生まれる。最初はピアニストを志して、ピアノ教師である従妹のピアノのレッスンを受けていたが、その従妹から「すごく良い声」であることを指摘され、熱心に勧められて歌手に転向した。ペザロの音楽院でカルメン・メリスとマエストロ・ザンドナーイに師事したが、ザンドナーイから「50年に一度、いやそれ以上に稀な声だ」と絶賛された。1944年、ヴェネト地方の劇場で行われた『メフィストフェーレ』のエレナ役でデビュー、成功を収める。第二次大戦後の1946年、ミラノに復帰したばかりのトスカニーニは、再建されたスカラ座のオープニング・コンサートのための歌手のオーデションに忙しかった。テバルディはこのオーデションを受け、トスカニーニの前で『オテロ』第4幕の『柳の歌』と『アヴェ・マリア』を続けて歌い、トスカニーニを驚かせた。テバルディはトスカニーニの指揮による新スカラ座のオープニング・ガラ・コンサートに出演することになったが、そのときトスカニーニは次のように言ったという。「天使の声は天から響く。だから、この娘はできるだけ高い場所に位置するようにしてくれないか」と。このコンサートは大成功におわり、テバルディの名声は一躍世界に広まった。

テバルディが歌手としてデビューして間もない頃、LPレコードが登場し、大変革をもたらした。SPが片面4分前後しか録音できないのに対し、LPは20分から30分近く録音できる。これによってオペラ全曲の録音が可能になり、各レコード会社は競ってオペラ全曲盤の録音に取りかった。主導権を握ったのはイギリスのデッカとEMIである。どちらも専属の歌手陣を擁し、それに主要なオペラの主役を任せてスターとして売り出した。そこで、イタリアオペラのプリマとしてデッカが選んだのがテバルディだった。しかし、デッカのプリマとしての候補はもうひとりいた。マリア・カラスである。デッカはテバルディを選び、落選したカラスの方はEMIが起用することになった。

テバルディは透明感のある美声を有する典型的なリリコ・スピントのプリマ。この種の声は個人的には必ずしも好みではないのだが、これを聴かずにやり過ごすことはできない。録音は古いが、どれも音がよい。また、どれも共演者は当時最高の歌手をそろえているので、コレクションとして不可欠である。


(1)プッチーニ『蝶々夫人』 エレーデ指揮 聖チェチーリア音楽院管弦楽団 デッカ 1958
テバルディ(蝶々夫人)、カルロ・ベルゴンツィ(ピンカートン)、フィオレンツァ・コッソット(スズキ)
テバルディの第一はこれにした。透明感のある美声とともに、プリマとしての貫禄のあるドスの利いた声が聴ける。配役も申し分ない。録音も非常に良い。

(2)ヴェルディ『オテロ』 エレーデ指揮 聖チェチーリア音楽院管弦楽団 デッカ 1954 
テバルディ(デズデモナ)、デル・モナコ(オテロ)、アルド・プロッティ(ヤーゴ)、ピエロ・デ・パルマ(カッシオ)
これはデル・モナコのオテロを聴くためのCDだが、デル・モナコの怒涛のようなパワーを受け止めることのできるソプラノはテバルディ以外にいなかったに違いない。しかし、歴代の名ソプラノをCDによって聴き比べることのできる現代においては、テバルディのデズデモーナが必ずしもベストとは言い難い。情感の表現力においてはフレーニが勝る。

(3)ヴェルディ 『運命の力』 プラデッリ指揮 聖チェチーリア音楽院管弦楽団 デッカ 1955
テバルディ(レオノーラ)、デル・モナコ(アルヴァーロ)、エットーレ・バスティアニーニ(ドン・カルロ)、ジュリエッタ・シミオナート(プレチオシルラ)、チェザーレ・シエピ(グアルディアーノ)
テバルディの歌いっぷりもよいが、なんといっても当時のデッカのスターが揃っているという点で是非聴いておくべきCD。豪華絢爛たる歌の競演。

(4)ヴェルディ『ドン・カルロ』 ショルティ指揮 コヴェントガーデン王立歌劇場 デッカ 1965
テバルディ(エリザベッタ)、カルロ・ベルゴンツィ(ドン・カルロ)、ニコライ・ギャウロフ(フィリッポ2世)、フィッシャー=ディースカウ(ロドリーゴ)、グレース・バンブリー(エボリ公女)
これもテバルディの歌いっぷりを聴くCDとしてオススメだが、これまた歌手陣が豪華である。ショルティの指揮は軽いが聴きやすい。アバドの壮重な指揮とは対照的だが、どちらがいいとも言い難い。

(5)ヴェルディ 『トスカ』 ブラデッリ指揮 聖チェチーリア音楽院管弦楽団 デッカ 1959 
テバルディ(トスカ)、デル・モナコ(カヴァラドッシ)、ジョージ・ロンドン(スカルピア)
テバルディもデル・モナコもよいが、ジョージ・ロンドンの悪役っぷりがなかなかよい。このオペラは悪役のスカルピアが重要である。

(6)ボーイト『メフィストーフェレ』 セラフィン指揮 聖チェチーリア音楽院管弦楽団 デッカ 1958
テバルディ(マルゲリータ)、シエピ(メイフィストーフェレ)、デル・モナコ(ファウスト)
これはテバルディより、シエピのメフィストフェーレが断然素晴らしい。シエピ、デル・モナコ、テバルディの競演が見事である。


いちおう順番をつけたが、順番はほとんど関係ない。どれも素晴らしい歌手陣で、イタリア・オペラ黄金時代のスターたちであり、その点で品質が絶対的に保証されている。そしてなにより、録音がいい。この後の世代のサザーランドの録音よりもいい。

 

 

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