ジョーン・サザーランド
Joan Sutherland

1926~2010。オーストラリアのシドニーに生まれる。幼少の頃から個人教授について声楽を学んだ。1949年、シドニーのコンクールに優勝、翌年、ロンドンに留学し、王立音楽院で声楽の訓練をする。1952年、『魔笛』の第一の侍女の役でコヴェント・ガーデンにデビュー。シドニー音楽院で知り合った指揮者のリチャード・ボニングとロンドンで再開し、結婚する。ボニングはサザーランドの才能を見抜き、ドラマチック・ソプラノからコロラトゥーラへの転向をすすめ、これが功を奏した。1959年、コヴェント・ガーデンで『ルチア』のタイトル・ロールを歌い、これで一躍名声を得た。おりしも、当時はマリア・カラスがコロラトゥーラにドラマチックな効果を与え、ベルカント・オペラを次々と復活させた時期にあたっていた。60年代になってマリア・カラスが下り坂になると、それと入れ変わるように活躍の場を広げ、世界中の歌劇場を席巻した。

高音域にわたって安定感のある力のあるコロラトゥーラだが、ドラマチックな表現力ではマリア・カラスに数段劣る。しかし、他にカラスに代わりうる人材がいるわけでもなく、ベルカントのプリマに不足していたデッカの強い後押しを受け、数多くのベルカント・オペラの録音を残した。艶のある美声というよりは透明感のあるリリックな声で、個人的には必ずしも好みではないので、あたくしとしてはそれほど熱心にオススメするわけではない。

以下、必ずしもオススメの順ではない。


(1)ベルリーニ『ノルマ』 ボニング指揮 ロンドン響 デッカ 1964
ジョーン・サザーランド(ノルマ)、マリリン・ホーン(アダルジーザ)、ジョン・アレクサンダー(ポリオーネ)

(2)プッチーニ『トゥーランドット』 メータ指揮 ロイヤル・フィル デッカ 1972
ジョーン・サザーランド(トゥーランドット)、 パヴァロッティ(カラフ)、モンセラ・カバリエ(リュー)、ギャウロフ(ティムール)

(3)ヴェルディ『椿姫』 ボニング指揮 ナショナル・フィル デッカ 1979
ジョーン・サザーランド(ヴィオレッタ)、パヴァロッティ(アルフレード)、マッテオ・マヌゲーラ(ジェルモン)

(4)ヴェルディ『リゴレット』 ボニング指揮 ロンドン交響楽団 デッカ 1970
ジョーン・サザーランド(ジルダ)、シェリル・ミルンズ(リゴレット)、パヴァロッティ(マントヴァ侯爵)

(5)ドニゼッティ『連隊の娘』 ボニング指揮 ロイヤルオペラ管弦楽団 デッカ 1968
ジョーン・サザーランド(マリー)、パヴァロッティ(トニオ)


いずれも歌手陣からしてデッカが相当に力を入れているのがわかる。サザーランドを中心にパヴァロッティ、ホーン、カバリエ、ギャウロフといったデッカのスターを配し、これなら売れないわけないだろう、という感じである。たしかに、これで悪いものができるはずはないが、決定盤にはなり得ない。ノルマはカラスに劣るし、トゥーランドットはニルソンに劣るし、ヴィオレッタはコトルバスに劣る。しかし、サザーランドのものも高い水準にあることは間違いなく、十分に聴きごたえのあるものにはなっている。

(4)はサザーランドのジルダとミルンズのリゴレットがぴったりだが、パヴァロッティのマントヴァがお気楽すぎる。

(5)はサザーランドのマリーもパヴァロッティのトニオもぴったりである。このオペラはこれ以外には聴いたことはないが、これが決定盤といっていいのではないだろうか。


 

・・・・・・