シェリル・ミルンズ
Sherrill Milnes


1935~。アメリカ、イリノイ州の農家に生まれる。幼いころからピアノ教師の母親から音楽教育を受けたという。大学を卒業すると、ボストン交響楽団の合唱団に入り、フリッツ・ライナーの指揮で第九の録音に参加した。25歳のとき、ゴルドフスキー歌劇団というドサ回りの歌劇団に入り、『リゴレット』、『椿姫』、『カルメン』など300以上の公演をこなした。こうしてキャリアを積んだ後、30歳のときにメトロポリタン歌劇場のオーディションを受けて合格し、『ファウスト』でデビュー、たちまちメトのバリトンのスターとなった。その後、メトを中心に、世界各地の一流歌劇場で活躍した。

独特の渋い声をしているが、美声といえるかどうかわからない。いずれにしても、声そのものより演技力で勝負するタイプ。とにかく演技がうまい。何をやっても「なるほど、この役はこういう風にやるのか」と納得させられる。ミルンズを聴くと、「オペラ歌手は声より演技である」と、つくづく感じる。この人さえいれば、バリトン・ロールに困ることはあるまい。おかげで、あらゆる指揮者から重宝されたらしく、CDは多い。守備範囲は主にヴェルディである。


(1)ヴェルディ『リゴレット』 ボニング指揮 ロンドン交響楽団 デッカ 1970
シェリル・ミルンズ(リゴレット)、ジョーン・サザーランド(ジルダ)、ルチアーノ・パヴァロッティ(マントヴァ侯爵)
どっちかといえば、タイトルロールを歌うより名脇役を演じるタイプだが、タイトルロールを歌ったものとなると、オススメはこれになるだろうか。『リゴレット』は個人的にはアバド・カップッチルリ盤を決定盤としているが、カップチルリはリゴレットのような役をやるには重々しく貫禄がありすぎる。その点、ミルンズは、こういう性格俳優的な主役を見事にこなす。ミルンズのリゴレットはイチオシといえる。ただ、ミルンズとサザーランドは素晴らしいものの、パヴァロッティが全然ダメである。マントヴァ侯爵はかなり難しい役だと思うのだが、パヴァロッティは全く演技をしない大根役者で、ミルンズとサザーランドの素晴らしい演技を台無しにしてしまっている。

(2)ビセー 『カルメン』 アバド指揮 ロンドン響 グラモフォン 1978
シェリル・ミルンズ(エスカミーリョ)、テレサ・ベルガンサ(カルメン)、プラシド・ドミンゴ(ドン・ホセ)、イレアナ・コトルバス(ミカエラ)
ミルンズが主役で出ているわけではないが、ミルンズの出ている代表作を一つ挙げろといえば、これになるだろうか。ミルンズも含めて、それぞれが役にぴったりはまっている。『カルメン』の決定盤。

(3)ヴェルディ『椿姫』 クライバー指揮 バイエルン国立歌劇場 グラモフォン 1976 
シェリル・ミルンズ(ジェルモン)、コトルバス(ヴィオレッタ)、プラシド・ドミンゴ(アルフレード)
これもこのオペラの決定盤なんですが、ミルンズの場合、リゴレット、エスカミーリョ、ジェルモンという全然性格の異なった役をやれて、しかもどれも他に並ぶものがないくらい上手い。

(4)ヴェルディ『アッティラ』 ガルデッリ指揮 ロイヤルフィル フィリップス 1972
シェリル・ミルンズ(エツィオ)、クリスティーナ・ドイテコム(オダベッラ)、ルッジェーロ・ライモンディ(アッティラ)、カルロ・ベルゴンツィ(フォレスト)
これまた役者が揃っている。ミルンズ、ドイテコム、ライモンディ、ベルゴンツィ、それぞれがヴェルディ節にのって存分に歌い上げる。名歌手の競演。是非聴いておきたい。

(5)ヴェルディ『ルイザ・ミラー』 マーク指揮 ナショナルフィル デッカ 1975
シェリル・ミルンズ(ミラー)、モンセラート・カバリエ(ルイザ)、ルチアーノ・パヴァロッティ(ロドルフォ)、ボナルド・ジャオッティ(ヴァルター伯爵)、リチャード・ヴァン・アラン(ヴルム)
これはカバリエのソプラノが一番の聴きどころなのかもしれないが、ミルンズの演技がやはり素晴らしい。アランの悪役ぶりもいい。パヴァロッティも悪くない。このオペラの演奏としてはほぼ文句のつけようがないのではないか。

(6)ヴェルディ『マクベス』 ムーティ指揮 ニューフィルハーモニア管弦楽団 ワーナー 1976
シェリル・ミルンズ(マクベス)、フィオレンツァ・コッソット(マクベス夫人)、ルッジェーロ・ライモンディ(バンクォー)、ホセ・カレーラス(マクダフ)
ミルンズとしてはマクベスは是非ともやりたかった役なのではないか。コッソットという願ってもないパートナーを得てはりきっているのがわかる。しかし、いささか演技過剰。

(7)モーツァルト『ドン・ジョヴァンニ』 ベーム指揮 ウィーンフィル グラモフォン 1977
シェリル・ミルンズ(ドン・ジョヴァンニ)、アンナ・トモワ・シントウ(ドンナ・アンナ)、ペーター・シュライアー(オッターヴィオ)、テレサ・ツィリス・ガラ(ドンナ・エルヴィーラ)、ワルター・ベリー(レポレロ)、エディット・マティス(ツェルリーナ)
いかにミルンズといえどもドン・ジョヴァンニは無理であった。この役は演技の上手さだけではいかんともし難く、やはり単なる女たらしになってしまっている。もっと品格と奥の深さと重量感が欲しいが、そういう人は滅多にいないので仕方ないか。ベームの指揮は円熟していてとてもいいと思いました。ライブ盤ですが、セッション録音だったらどうだったでしょうね。

 

 

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