ペーター・ホフマン

Peter Hofmann

1944~2010。ズデーテン地方のマリエンバートに生まれ、ダルムシュタットで育った。西ドイツ軍の兵役に7年間就いた後、カールスルーエ音楽大学に入学。そこでオペラ歌手としての教育を受けた。1972年、リューベック劇場で『魔笛』のタミーノ役でデビュー。1974年、ドイツのウッパータールオペラ劇場で『ワルキューレ』のジークムントを歌った。1976年にはバイロイトに出演。以後、ジークムント、ローエングリン、パルジファル、トリスタンと主役級を総なめにした。1980年代にはいると以前から好きだったロック・ポップスの演奏活動をはじめ、オペラファンの顰蹙をかった。80年代後半には声の調子を崩し、オペラ活動から身を引いた。その後、ロック・ポップスの音楽活動は続けたが、1999年に音楽活動から完全に引退。パーキンソン病であったことが後に判明した。

オペラ歌手というよりはロックミュージシャン風のかっこいい容貌なのでステージでは見栄えがしたものと思われる。声の性質としてクリスタルな硬質感を有するところはルネ・コロと共通しているが、ルネ・コロのような甘い美声ではなく、より硬く芯のある声である。ヘルデンテノールが不足していた事情でルネ・コロと同様ひっぱりだこだったらしいが、活動していた期間が非常に短かったせいか、オペラのCDはそれほど多くない。

 

(1)ワーグナー『ワルキューレ』 ブーレーズ指揮 バイロイト祝祭 フィリップス1980 
ペーター・ホフマン(ジークムント)、ジャニーヌ・アルトマイア(ジークリンデ)、マッティ・サルミネン(フンディング)、ギネス・ジョーンズ(ブリュンヒルデ)、ドナルド・マッキンタイア(ヴォータン)、ハンナ・シュヴァルツ(フリッカ)
神聖さのある静寂の中を透明感のある美声が突き抜ける感じはカラヤン盤とよく似ている。全体的にはカラヤン盤にやや劣るが、ペーター・ホフマン、アルトマイア、マッティ・サルミネンの三者が歌っているところは非常に美しい。録音もよい。

(2)ワーグナー『パルジファル』 カラヤン指揮 ベルリンフィル グラモフォン1980
ペーター・ホフマン(パルジファル)、クルト・モル(グルネマンツ)、ドゥニャ・ヴェイソヴィチ(クンドリー)、ジョセ・ファン・ダム(アンフォルタス)、ジークムント・ニムスゲルン(クリングゾール)
ストーリー的にはわけの分からないオペラだが、カラヤンはとにかく純然たる音楽として美しく演奏することを心がけているので、純然たる美しい音楽として聴くことができる。カラヤンはペーター・ホフマンの声を非常に気に入っていたそうで、カラヤンにしては珍しく、ホフマンの歌う第二幕の録音を中断することなく一気に最後まで通したという。

(3)ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』 バーンスタイン指揮 バイエルン放送響 フィリップス1981 
ペーター・ホフマン(トリスタン)、ヒルデガルト・ベーレンス(イゾルデ)、イヴォンヌ・ミントン(ブランゲーネ)、ベルント・ヴァイクル(クルヴェナール)、ハンス・ゾーティン(マルケ王)
これは言うまでもなくこのオペラのCDの最高傑作だが、ペーター・ホフマンはバーンスタインの独特の解釈に合わせるのが辛くて苦労したらしい。何度も繰り返し歌うよう要求され、怒りをあらわにしたという。しかし、結果として素晴らしい演奏に仕上がっているのだから我慢のし甲斐もあったのでは。ペーター・ホフマンは要求に応えて申し分なく歌っていると思います。

(4)モーツァルト『魔笛』 ストラスブール・フィル ランバール指揮 デッカ1978

ペーター・ホフマン(タミーノ)、キリ・テ・カナワ(パミーナ)、フィリップ・フッテンロッハー(パパゲーノ)、キャスリーン・バトル(パパゲーナ)、エディタ・グルベローヴァ(夜の女王)、ヨセ・ファン・ダム(ザラストロ)、クルト・モル(弁者)

この歌手陣をみて思わず唸ってしまった。Spotifyでみつけたが、知らない人が多いのではないか。演奏全体の出来としてはベーム盤にかなわないと思うが、これだけ歌手が揃うとやはり一度は聴いてみたいと思わせる。

 

 

 

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