ピエロ・カップッチッリ
Piero Coppuccilli


1928~2005。イタリアのトリエステに生まれる。最初は建築家を志し、声楽の勉強を始めたのは21歳になってからだという。地方巡業で腕を磨いていたが、1956年、ミラノのテアトロ・ヌオーヴォで行われた若手のオーディションにでて合格し、『道化師』のトニオでデビュー。ついでフィレンツェ・ぺルゴラ座で『トスカ』のスカルピアを歌った。その実力は徐々にイタリア中に知れ渡ったが、当時、人材の豊富だったミラノ・スカラ座はなかなか彼に食指を動かさなかった。しかし、その輝かしい美声がEMIのプロデューサーの耳にとまり、セラフィン指揮による『ルチア』(マリア・カラスがヒロイン)の新録音に起用され、これによってカップッチッリの名声は一躍世界中に広まった。1964年、『ルチア』でついにミラノ・スカラ座デビュー。このときの成功によって彼の地位と名声は不動のものとなり、以後、1992年に交通事故で重傷を負うまで、28年間にわたってミラノ・スカラ座のスターとして君臨し続けた。

男性歌手でオペラの華といえば普通テノールであり、バリトンでこれほど華のある人はいないんじゃないかと思う。ヴェルディにこだわり続け、ミラノ・スカラ座に定着してからは、ヴェルディ以外はほとんど歌わなかった。バリトンなので主役を演じる場面は限られるが、録音されたオペラはどれも傑作である。


まず、絶対に外せないのは、アバド指揮=ミラノ・スカラ座による二つの録音。
 

(1)ヴェルディ 『マクベス』 アバド指揮 ミラノ・スカラ座管弦楽団 グラモフォン 1976

カップッチッリ(マクベス)、ヴァーレット(マクベス夫人)、ギャウロフ(バンクォー)、ドミンゴ(マクダフ)


(2)ヴェルディ 『シモン・ボッカネグラ』 アバド指揮 ミラノ・スカラ座管弦楽団 グラモフォン 1977
カップッチッリ(シモン)、フレーニ(マリア)、ギャウロフ(ヤーコポ)、カレーラス(カブリエーレ)、ホセ・ヴァン・ダム(パオロ)

録音が非常によいこともあって、この二つでミラノ・スカラ座の実力を存分に堪能できる。オケの迫力が尋常ではない。ミラノ・スカラ座管弦楽団こそ、世界最高のオケだと確信できる。とにかく両方とも凄い録音である。アバド指揮によるこの二つのオペラ公演は、カップッチッリ自身がいたく気に入っていたそうで、とくに『ボッカネグラ』は男性歌手陣による華やかな歌の競演という感じ。

そして次の二つ。

(3)ヴェルディ 『リゴレット』 ジュリーニ指揮 ウィーンフィル グラモフォン 1979
カップッチッリ(リゴレット)、ドミンゴ(マントヴァ公爵)、コトルバス(ジルダ)、ギャウロフ(スパラフチーレ) 

(4)ヴェルディ 『ナブッコ』 シノーポリ指揮 ベルリン・ドイツオペラ管弦楽団 グラモフォン1982
カップッチッリ(ナブッコ)、ドミンゴ(イズマエーレ)、エウゲニー・ネステレンコ(ザッカリーア)、ゲーナ・ディミトローヴァ(アビガイッレ)、ルチア・ヴァレンティーニ・テッラーニ(フェネーナ)

この二つも、先の(1)(2)に劣らず素晴らしいです。(3)はこのオペラの決定盤。(4)の『ナブッコ』はヴェルディのオペラの中ではあまりポピュラーな方ではないと思いますが、カップッチッリ、ドミンゴの他、ネステレンコ、ディミトローヴァ、テッラーニと実力派の歌手をズラリと揃えてなかなか渋い。シノーポリの指揮も優れていて、素晴らしいオペラであることが実感できます。是非聴いてほしい。

カップッチッリがタイトルロールを歌ってないものとしては、

(5)ドニゼッティ 『ランメルムーアのルチア』 セラフィン指揮 フィルハーモニア管弦楽団 EMI 1959
カップッチッリ(エンリーコ)、マリア・カラス(ルチア)、フェルッチョ・タリアヴィーニ(エドガルド)、ベルナルト・ラディス(ライモンド)、レオナルド・デル・フェロ(アルトゥーロ)、マルグレータ・エルキンス(アリーサ)
これはマリア・カラスの『ルチア』としてあまりにも有名な盤ですが、カップッチッリの若かりし頃の出世作としても貴重なので押さえておきたい。

 

 

・・・ここに挙げたものはどれも絶対の必聴盤。

 

 

 

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