ジョン・ヴィッカース
Jon Vickers

1926~2015。カナダのプリンス・アルバートに生まれる。トロントの王立音楽院に学ぶ。1954年、カナダ・オペラカンパニーによる『リゴレット』の公演でマントヴァ公爵としてデビューしたが、この役はヴィッカースには不似合いだった。歌手ではなかなか食えずに諦めかけたとき、突然コヴェント・ガーデンの総支配人からオーデションへの誘いの電話があった。そして1957年、『仮面舞踏会』でコヴェント・ガーデンにデビュー。ついで『カルメン』、『トロイア人』で歌って大成功を収める。その後、1958年にはバイロイト、1959年にはウィーン国立歌劇場、1960年にはメトロポリタン歌劇場、ミラノ・スカラ座・・・と、世界の歌劇場を次から次へと制覇していった。

他の多くの大物テノールのような張りのある輝かしい響きのある声ではなく、やや憂いを含んだ力強い豊かな声である。その人物の内面にまで掘り下げた、深みのある、かつ真に迫った表現力を有する。ゆえに、ヴィッカースの出た悲劇のオペラはどれもドラマチックな迫力のあるものになる。演技に関しては完全主義者であり、『オテロ』で共演してデズデモナを演じたマーガレット・プライスは本当に殺されるかと思ったという。

器が大きすぎて、演じる役は限られる。CDは少ない。


(1)『オテロ』 カラヤン指揮 ベルリン・フィル EMI 1974
ヴィッカース(オテロ)、フレーニ(デズデモナ)、ピーター・グロソップ(ヤーゴ)

(2)『ワルキューレ』 カラヤン指揮 ベルリンフィル 1969
ヴィッカース(ジークムント)、ヤノヴィッツ(ジークリンデ)、クレスパン(ブリュンヒルデ)、スチュアート(ウォータン)

この二つは、すでに述べたように、絶対の必聴盤である。

なお、ヴィッカースの『オテロ』はセラフィン盤もあるが、デズデモナはリザネクよりフレーニの方が圧倒的にいいので、カラヤン盤をお勧めします。

問題は次なのだが、
 

(3)『トリスタンとイゾルデ』 カラヤン指揮 ベルリンフィル EMI 1972

ヴィッカース(トリスタン)、デルネシュ(イゾルデ)、リッダーブッシュ(マルケ王)、ルートヴィヒ(ブランゲーネ)
カラヤンの指揮とベルリン・フィルはおそらく完璧といっていいと思う。ヴィッカースは例によって迫力があるが、ここではヘルデンテノールに特有の声の甘さが欲しい。デルネシュの声は力はあるものの高域が鋭く尖っていて、あたかも耳を刺すようである。しかし、だいたいにおいて聴きごたえのある演奏。

そして次だが、

(4)『アイーダ』 ショルティ指揮 ローマ歌劇場 デッカ 1962 
ヴィッカース(ラダメス)、レオンタイン・プライス(アイーダ)、リタ・ゴール(アムネリス)、ロバート・メリル(アモナズロ)、ジョルジオ・トッツィ(ランフィス)
これは今回、初めて聴いたのだが、なかなかよい。私は『アイーダ』は好きではないが、これを聴いてイメージを変えてしまった。ヴィッカースとレオンタイン・プライスがじつにドラマチックに歌い上げており、ショルティに特有の派手な指揮もここではぴったりである。録音も非常によい。おすすめ。

 

 

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