チェチーリア・バルトリ
Cecilia Bartoli

1966年、イタリアのローマに生まれる。両親はオペラ歌手。8歳の時にローマ歌劇場で『トスカ』の羊飼いの少年を歌う。ローマ聖チェチーリア音楽院に学び、1987年にミュンヘンの声楽コンクールに優勝。シュヴェツィンゲン音楽祭で『セビリアの理髪師』のロジーナを歌い、これが大評判となった。さっそくロッシーニ音楽祭に呼ばれて『絹のはしご』のルチッラを歌い、チューリヒ歌劇場で『フィガロ』のケルビーノを歌った。1992年には渡米してシカゴでケルビーノ、ヒューストンでロジーナを歌う。1993年にはザルツブルク音楽祭で『コシ・ファン・トゥッテ』のデスピーナを歌い、絶賛された。

かなり異色の存在である。目鼻立ちのはっきりした独特の風貌。独特の太い声でありながら、カバーする音域が異常に広く、かつ超絶技巧の持ち主で、アジリタ(細かい装飾音のある高音域のパッセージを高速で歌う)を完璧にこなすことが最大の特徴。

基本的にはメゾ・ソプラノであり、パワーや表現力で勝負するタイプでもないので、ヴェルディやプッチーニのタイトルロールは歌わないようである。

レパートリーはもっぱらモーツァルト、ロッシーニ、あるいはオペラセリアに限られる。

従来、スター歌手というのはワーグナー、ヴェルディ等、近代オペラの主役級を歌うドラマティコがほとんどだが、バルトリはそうしたタイプでないにもかかわらずスター性がある。

その超絶技巧を楽しむとすれば、やはりロッシーニかオペラセリアということになる。


(1)ハイドン『オルフェオとエウリディーチェ』 ホグウッド指揮 エンシェント室内管弦楽団 オワゾリール 1995
バルトリ(エウリディーチェ)、ウーヴェ・ハイルマン(オルフェオ)、イルデブランド・ダリカンジェロ(クレオンテ)
いきなりバルトリのアジリタがじつに見事で、このためにつくったCDなのかなと思ってしまう。ハイドンのオペラセリアはとても楽しいと思ったのはホグウッドの指揮が上手いせいだろうか。録音も非常によい。おすすめ。

(2)モーツァルト『ポントの王ミトリダーテ』 ルセ指揮 レ・タラン・リリーク デッカ 1998
バルトリ(シーファレ)、ナタリー・デセイ(アスパージア)、ジュゼッペ・サバティーニ(ミトリダーテ)、ブライアン・アサワ(ファルナーチェ)
モーツァルトが14歳の時に作曲したオペラ・セリアで、14歳の溌溂としたモーツァルトが聴ける。バルトリ、デセイ、アサワと役者が揃って美声と技巧の洪水。絢爛豪華。バルトリがかなり高音域のパートを歌っているが、見事という他はない。

(3)ヘンデル『リナルド』 ホグウッド指揮 エンシェント室内管弦楽団 デッカ 1999
バルトリ(アルミレーナ)、デヴィッド・ダニエルズ(リナルド)、ルーバ・オルゴナソーヴァ(アルミーダ)、ベルナルダ・フィンク(ゴッフレード)、ジェラルド・フィンリー(アルガンテ)、ダニエル・テイラー(エウスターツィオ)
これはバルトリがどうこういうより、基本的にいって、ダニエルズ、テイラーといったカウンターテナー、バルトリ、フィンクといったメゾソプラノの技巧を聴くためのオペラである。近代オペラでは味わえないオペラセリア特有の典雅さが味わえる。これまたホグウッドが上手くまとめていると思う。


あとは、バルトリの主たるレパートリーであるロッシーニなのだが。


(4)ロッシーニ『セビリアの理髪師』 パターネ指揮 ボローニャ歌劇場 デッカ 1988
バルトリ(ロジーナ)、レオ・ヌッチ(フィガロ)、ウィリアム・マッテウッツィ(アルマヴィーヴァ)、エンリーコ・フィゾーレ(バルトロ)、パータ・ブルチュラーツェ(バジリオ)
このオペラはアバド指揮による決定盤がある。ロジーナはバルトリの十八番だが、個人的にはベルガンサの美声の方に魅力を感じる。バルトリの技巧が完璧なのは認めるが、オペラはそれだけじゃないからね。ヌッチはプライに全然かなわない。バルトリ自身はともかく、総合的な魅力ではアバド盤の方が上でしょうね。

(5)ロッシーニ『シンデレラ』   シャイー指揮 ボローニャ歌劇場 デッカ 1992
バルトリ(シンデレラ)、ウィリアム・マッテウィッツィ(ラミーロ)、エンツォ・ダーラ(ドン・マニフィコ)、アレッサンドロ・コルベッリ(ダンディーニ)、ミケーレ・ペルトゥージ(アリドーロ)、グローリア・バンディテッリ(ティズベ)、フェルナンダ・コスタ(クロリンダ)
これまたアバド=ベルガンサによる強力なライバル盤がある。シャイー=バルトリ盤の技巧的な完成度の高さは認めるが、聴いて楽しいのはアバド=ベルガンサ盤の方だと思いました。

(6)ロッシーニ『イタリアのトルコ人』 シャイー指揮 ミラノ・スカラ座 デッカ 1997 
バルトリ(フィオリッラ)、ミケーレ・ペルトゥージ(セリム)、アレッサンドロ・コルベッリ(ドン・ジェローニオ)、ラモン・バルガス(ドン・ナルチーゾ)、ロベルト・デ・カンディア(詩人)、ラウラ・ボルベレリ(ザイダ)、フランチェスコ・ピッコリ(アルバザール)
これはバルトリによるロッシーニの軽快なアジリタを聴くためのCDだと思う。それ以外にこのCDを聴く特段の意義は感じない。


そして、最後にこれ。


(7)ベルリーニ『ノルマ』 アントニーニ指揮 ラ・シンティッラ管弦楽団 デッカ 2011~2013
バルトリ(ノルマ)、ジョン・オズボーン(ポリオーネ)、スミ・ジョー(アダルジーザ)、ミケーレ・ペルトゥージ(オロヴェーゾ)、リリアーナ・ニキテアヌ(クロティルデ)、レイナルド・マシアス(フラヴィオ)
このオペラは言うまでもなく、マリア・カラスによる歴史的かつ絶対的決定盤がある。これには全然かなわない。比べるのも可哀そうである。オズボーン、スミ・ジョーは、コルレリ、ルートヴィヒと比較する気にもなれない。バルトリは技巧的にはカラスに勝っているとは思うが、パワーと表現力、全体的な貫禄では到底及ぶべくもない。



いずれにせよ、どれもおススメできる。とにかく技巧は完璧で録音も非常によいため、ただそれだけで聴きごたえのするCDが揃っている。

 

 

 

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