かなり胸締めつけられる一編なので、こんな形で此処(小説の中のあれやこれ)でupするのは….ω‥躊躇(タメラ)いません…これはこれ、それはそれ。
私のお気に入りの作家さん、絲山秋子氏の『ダーティ・ワーク』の中の「moonlight mile」という章から
主要な登場人物・遠井が旧友(?)からの突然のメールで回顧してるシーン
いつものように無断転載↓↓
《遠井が、神原美雪の名前を忘れるわけがない。彼女は大学時代、同じクラスにいた。美人ではなかった。笑う牛(ラ・ヴァッシュ・キ・リ)のチーズのパッケージに描いてある赤い牛にそっくりだ。誰にも言ったことなかったが彼はそう思っていた。頭はむちゃくちゃ良かった。博士課程まで進んだ。彼はいつも彼女にノートを借りていた。服装はダサかった。ノートを返しに家に遊びに行くと、とっくりのセーターの上に半纏(ハンテン)を着ていた。そして牛のような声で自分のことを「オレ」と言った。もてるわけがなかった。
しかし遠井はふられた。》
かなりシリアスなパートなのでメール内容や事の顛末については触れませんが、ザクッと関係性は伝わりますよね…
遠井は神原美雪からのメールで入院していることを知り呼び出されるように彼女のもとに駆けつけた時のシーンが↓↓
《ナースステーションで部屋を確認し、個室のドアをノックすると母親が出た。名前を言うとすぐに通された。
暖かい病室で、美雪は淡いオレンジ色のパジャマを着て、ベッドの背の部分を起こして座っていた。頭にはニットのキャップをかぶっていた。確かに、昔よりは痩せていた。彼の顔を見るとにっと笑った。笑う牛(ラ・ヴァッシュ・キ・リ)。なんだか拍子抜けするようだった。
「外は寒いよ」と彼が言うと、
「そりゃあ、冬だもの」
と、返された。全く変わってないな、と思った。
ベッドサイドにはパソコンが置いてあった。そこから、コップとかタオルとかティッシュとか、細々したものが並んでいた。
母親は牛というよりも鹿に似ていた。父親は色白で、顔の表情がどことなくシュウマイに似ていた。しかしここでお父さんはシュウマイに似ていますね、などと言ったらどうなることだろう。》
チョット深刻な病状の人の見舞いに行った時って、意識のベクトルを核心から反らそうとしますよね。そんな遠井の心情が反映しているのが伝わってきます。…もっとその辺のこととか言及したいことはたくさんあるのですが、此処では重箱の隅を突っついてみます…
神原美雪さんの容姿について遠井さんはずいぶんな表現をしてます…、チーズのパッケージの“笑う牛(ラ・ヴァッシュ・キ・リ)”
…その直後の記述に遠井が神原美雪に「ふられた」とあるんです…
「どーゆーこと?」って思うでしょ!…遠井と神原美雪の関係性や人物像が徐々に解ってくるとズンと胸締めつけられることになるんですよ。
そーゆー本線の話から外れて、このチーズ、私、知らなかった。ワインというよりパンに合いそうなチーズみたい…フランス原産だけど大手食品メーカーが扱ってるからけっこう入手し易いかな。
その神原美雪の母親が鹿に似ている…ってのは、まあイイですよ。
なんとなくイメージできます(だったら神原美雪の牛はイメージできたのかよって自分にツッコム)。
で、父親です。
…シュウマイ…って…
顔の表情がシュウマイに似てる人、見たことあります?
私が此処で言いたかったのはそれだけなんです…おちゃらけた私の視点はともかくも、作品の方はホント響いてきます。遠井と神原美雪のこの章だけでもひとつの作品として成立してるのですが、この一編が長編の中のひとつのシークエンスにもなっていて厚みのある小説になっていました。タイトルの『ダーティ・ワーク』や「moonlight mile」はもちろんRolling Stonesのそれが出典で、その意図も奥深いものが感じられます。
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